COLUMN

 
 
2024.3.1

 

「トップメッセージ」の英訳って、「Top Message」でいいの?

2024.3.1

 

「トップメッセージ」の英訳って、
「Top Message」でいいの?

「Top Message」っておかしくない?

日本企業の統合報告書やコーポレートサイトを見ていると、「トップメッセージ」や「トップインタビュー」という表題のセクションがよくあります。文字通り、経営トップの方針や見解を掲載しているページですが、同じ内容の英語版の表題を「Top Message」や「Top Interview」としている会社が結構あります。これらは、英語圏でも使われている適切な英語表現なのでしょうか?

海外企業は「Top Message」とは言わない

 

 
 
試しに、Google英語版(google.com)で「Top Message」を検索してみました。その結果が上の画像です。名だたる日本企業のサイトが上位に表示されます。と言うよりも、日本企業のサイトしか出て来ません。「Top Message」と言う表現は、英語圏ではまず使わないのです。この表現を見聞きした時にどんなふうに感じるか、私どもの英語ネイティブスタッフに確認してみたところ、「最重要メッセージ」「最優先メッセージ」のようなニュアンス、あるいは「天の声」のような感じだと言います。

もっとも、普段から日本企業の英語版レポートやウェブサイトを見慣れている海外の機関投資家であれば、「最優先メッセージ」や「天の声」などと誤解することはあまりないでしょう。文章の内容から「経営トップのメッセージ」と理解した上で、せいぜい「変な和製英語を使っている会社だな」と思われるだけです。しかし、グローバル企業を標榜する会社が、海外の投資家や既存/潜在の取引先から「変な和製英語を使っている会社」と思われていて良いでしょうか。
 
では、「トップメッセージ」という「日本語」が出てきた時、どう英訳すればよいのでしょう? 答えは、その「トップ」の役職次第と言えます。メッセージの主が「President」であれば、A Message from the President」や「President's Message」、CEOであれば、「President」の部分が「CEO」になるといった具合です。時にメッセージやインタビューの主が会長と社長の二人という場合もありますが、そんな時は「A Message from Top Management」(インタビューであれば「Interview with Top Management」)とすれば良いでしょう。「Top Management」を使ったこの訳は、メッセージの主が社長ひとりの場合でも使えます。「経営トップ」の意味ですので、ある意味、最も正確な英訳と言えます。ただ、「Management」(経営陣)と言った時点で、通常は会社のトップレベルの人たちを指しますので、特に「Top」を入れずとも、「A Message from the Management」だけでも良いでしょう。

この種の経営トップメッセージのタイトル、海外企業はどのようにしているのでしょうか? 「A Message from ○○○」や「○○○'s Message」も普通に使われていますが、他によく用いられているのが「Letter」を使った表現──例えば、「Letter from the CEO」や「Letter to Shareholders」などです。後者の「Shareholders」の部分は、メッセージを届ける相手によって「Stakeholders」などと変わってきます。このほか、「Dear Stakeholders」とか「To Our Shareholders」という表題(と言うよりも、書き出し)のメッセージページもよくあります。これもレター形式の一種です。このようなレター形式の場合、文章の最後は「Sincerely」などの結びの言葉と自署で締めくくられます。「レター」ですから当然です。
 

欧米企業は、会長や社長メッセージページのタイトルに「Letter」を用いることがよくあります。(JPMorgan Chase & Co.のアニュアルレポート2022サイトより)

 
 
翻訳だけを請け負う「翻訳会社」の立場で「トップメッセージ」を「Letter from 〜」とはなかなか訳しにくいですが、海外投資家向けIRを重視する企画編集者の立場であれば、文章の構成自体を最初からレター形式にておくというアプローチをしてみても良いでしょう。グローバル企業を標榜する会社であれば、英語版を標準にして、その日本向けローカライズ版を作成するという流れを意識してみても良いのではないでしょうか。残念ながら、今のところ日本企業の海外PR/IRには、そういったグローバルな視点での企画・プロデュース力や、それを実現できるリソースが不足しているように感じます。

囲み記事のコーナー名「Topics」にも要注意

 

 
統合報告書などでよく見かけるカタカナ英語で、英語圏ではあまり用いない使われ方をしているものがもうひとつあります。セグメント別の事業報告ページやESG関連のページの囲み記事などでコーナー名的に用いられている「トピックス」あるいは「トピック」という言葉で、これをそのまま「Topic(s)」として英語版で掲載している企業をよく見かけます(日本語版の時点で「Topic」もしくは「Topics」と英語表記になっているケースもあり、単にデザイン上の要素として使われている印象のものも多くあります)。このことは、前述の「Top Message」ほどクリティカルな問題ではありませんが、いかにも翻訳版という感じで、グローバル企業のイメージからは程遠い印象です。
 
そもそも、年次報告書などにこの種の「コーナー名」を用いること自体、英語圏ではあまり多く見かけません。しかも、そのコーナー名が「Topics」だと、言葉足らずな印象です。コーナー名が単に「話題」となっているだけのような感じで、ネイティブにとっては違和感があります。仮に日本語版に「Topics」や「トピック」といったコーナー名が用いられていたとしても、英語版のコーナー名は、そこで書かれている内容を踏まえて、例えば、次のようなものにされることをお勧めします。
 

Topics in FY2024(その年度の話題であることを明示)
What's New
Recent Developments
Developments in FY2024
What's Happening

 
今回取り上げたようなカタカナ英語は、企業レポートの英訳版を作る際に見落としがちですが、うっかりしていると、変な英語を使っている会社として企業イメージを堕としめかねません。「うちのレポートの翻訳はネイティブが担当しているから」と言って安心はできません。英語ネイティブが英訳を担当したとしても、その翻訳者にIRツールを制作しているという目的意識が欠けていると、カタカナをそのまま英単語に置き換えてしまうケースもままあります。一口に「ネイティブ」と言っても、我々日本語のネイティブがそうであるように、能力や問題意識は人それぞれです。英文PR/IRツール制作には、読み手である海外の投資家やステークホールダーのことをしっかりと意識できる英文編集者の視点が重要なのです。
 

※社長メッセージページの表題への考察については、こちらのコラムでも取り上げています。

 

(了)

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Author

筆者:吉田周市
デザインクラフト代表。クリエイティブディレクター/翻訳者。海外広報専門の制作会社に12年在籍し、大手広告会社、証券系IR会社、電子部品メーカー、金融機関、経済メディア、官公庁、国際機関、在日大使館などを主要クライアントとして英文広報・IR関連のクリエイティブ業務・翻訳業務に携わる。2008年に現事務所を立ち上げ、以来、京都を拠点に多言語でのPR/IRクリエイティブの企画・制作と翻訳業務を続けている。
主な訳書

新標準・欧文タイポグラフィ入門 プロのための欧文デザイン+和欧混植
ハリウッド映画の実例に学ぶ映画制作論 - BETWEEN THE SCENES
PICTURING PRINCE プリンスの素顔

など。