BLOG

9/9/2019

 

海外投資家に叱られる?──
"We aim to ..." だの、"Aiming to ..." だのと言っている
日本の社長メッセージの何と多いことか……

9/9/2019

 

海外投資家に叱られる? ──
"We aim to ..." だの、"Aiming to ..." だのと言っている日本の社長メッセージの何と多いことか……

  

デザインクラフトではアニュアルレポート(年次報告書)やCSR/ESG関連レポートの英文デザイン/レイアウトの仕事をしていますが、そんな中でいつも気になることがあります。
 

それは、レポート中の重要なコンテンツである社長/CEOメッセージのヘッドコピーです。この英文コピーはその会社の現在の経営姿勢を端的に表現するものであり、レポートの内容を一言で表すものとも言えます。通常、一つのセンテンスもしくは動名詞句で表現されることが多いこのコピーですが、日本企業のレポートの場合、かなりの確率で次のようなものになっています。
 

      • We aim to ...
      • We are aiming for ...
      • Aiming to ...

 
また、これと似た形として多いのが "toward" や "become" を使った「理想像」パターンで、例えば次のようなフレーズです。

      • Toward the realization of a sustainable society
      • Toward achieving the sustainable development goals
      • Becoming a truly global company 

 
そして、 "strive"、"pursue" を使った「頑張ります!」パターン

      • We are striving for ...
      • Pursuing to ...

 
さらに、"continue" を使った「努力を続けます」パターン

      • We continue ~ing ...
      • Continuously ~ing ...

 
CSR/ESG関連ですと、"contribute" を使ったものも加わります。よく見かけるのが、"Contributing to 〜 through ..." というフレーズです。
 
しかし、どうしてこれほど似たようなフレーズが多いのでしょうか? 答えは簡単です。すべて元々日本語で原稿が作られ、それを単純に英訳しているからです。
 
 
 

画一的で、具体性に欠ける和文コピー

 

典型的な日本の社長メッセージ英文コピーの例
 

このような翻訳原稿が必ずしも悪いわけではありません。特に日英両方の言語で投資家向けレポートを公開している企業であれば、言語によって情報の質や量に差があってはいけません。英語版だけ別の表現にしてしまうことは望ましくないでしょう。そもそも、これは英訳の問題ではありません。原稿の作り方・編集の問題です。元の日本語がかなりの確率で次のようなフレーズになっているからです。
 

      • 「〜を目指して」
      • 「〜に向けて」
      • 「〜してまいります」

 
そして、この「〜」にあたる部分は、多くの場合あまり具体性のない言葉です。例えば、「持続可能な社会の実現」であったり、「ともに成長を続ける」ことだったり、「真にグローバルな企業になる」ことだったり…… 未来へのかなり漠然とした目標であることが多いのです。
 
近年のコーポレートガバナンス・コードの改訂とともに上場企業に中期経営計画(中経)の策定・開示が求められるようになりましたが、中経のタイトルにも上記のようなフレーズがよく用いられています。中期経営計画の「英語的な」見せ方についてはまた別の機会にお話ししたいと思いますが、そもそも欧米の企業で中経を発表するところはほとんどありません。これは一言で言えば、結果に対して明確な責任が求めらる欧米型の経営カルチャーと、同じ旗の下に集まった同士の「和を以て貴しとなす」ようなマインドが残る従来型の日本の経営カルチャーとの違いではないかと思います。短期で結果を出さなければ首をすげ替えられる恐れのある欧米の経営者は、「〜を目指して」といった悠長なことは言っていられないのでしょう。
 
 
 

欧米企業はクォート型が主流

 

GEのアニュアルレポート
 

では、欧米企業の社長/CEOメッセージのヘッドコピーにはどのようなものが多いのでしょう? 筆者がリサーチした印象では、一つ言えることとして <ヘッドコピーにあたるものが特にない> ものが意外に多いのです。単に "Dear Stakeholders" とか、"To Our Shareholders" などとなっているだけです。一方で欧米のレポートでよく見られるのは、本文中にある言葉をクォート(引用)してページ内の要所要所にレイアウトし、経営者の考えを印象付ける手法です。そして、そのクォートの内容としてよく見られるのは、現状の経営実績のアピール、あるいは自身の経営方針の信念や正当性をアピールするものです。
 
一例を挙げます。「e.com ReportWatch」という世界の主要企業のアニュアルレポートを毎年評価しているサイト(1996年設立、本社:ロンドン)があります。そのサイトの評価基準の一つに「CEO/会長メッセージ」という項目があるのですが、その項目で2018年の最優良事例上がっているのが米国ゼネラル・エレクトリック社(GE)のアニュアルレポートで、「The letter from the new CEO is worth reading.」(新CEOのレターは一読に値する)と評されています。
 
ご存じの通りGEは、ジャック・ウェルチの後を継いで2001年にCEOに就任したジェフ・イメルトが事業の取捨選択に失敗、金融危機以降経営難が続いています。そんな中、2017年に生え抜きとしてCEOに就いたジョン・フラナリーが就任に際して決意を述べたのがこのCEOメッセージでした。
 
もちろんそこには「〜に向けて」といった中長期的な視点の標語はありません。9ページにわたるCEOメッセージの冒頭ページに目立つ形でデザインされているのは "Dear Investors, Customers, Partners, and Employees" というステークホルダーに対する呼びかけで、いわゆるヘッドコピーのようなものはありません。その代り、この9ページの中で最も目立つ扱いになっているコピーは本文からのクォートである次の1文です。
 

  • "If anything gives me faith in our future, it is the passion and resolve of our teams."
    (当社の将来に向けて信頼できるものがあるとすれば、それは私たちの情熱と決意です)

 
すごく具体性のある言葉というわけではありませんが、少なくとも(例えば)「経営再建に向けて」といった言葉よりは具体的です。もっと言えば、「〜に向けて」と言われるよりは、ステークホルダーにとってその経営者に付いていくかどうかの判断基準になり得ます。上記の言葉もそうですが、このCEOメッセージが評価された大きな要因は、フラナリーの言葉がパーソナルな響きを持って読み手の心情に訴えてくるからだと思います。自分と従業員家族とのエピソードなども含め、文章中には "I" という1人称がよく出てきます。このような手法は、ステークホルダーの中でも特に従業員にとってはより効果的だと思われます。翻って日本の経営者メッセージはどうでしょうか? 一部のカリスマ経営者を除けば、多くの場合、その視点は個性をぼやかした "We" 視点に、メッセージの内容は具体性を欠く「御題目」になっていないでしょうか。
 
 
 

グローバル企業であれば、メッセージの発信にもそれなりの視点が必要

 
この辺りを論じ始めると終わりのない文化論になってしまいますし、経営手法やその広報手段としてどちらが正しいと言うこともできません。(前述のメッセージを書いたフラナリーも、結局その後1年あまりで辞任に追い込まれています)
 
日本的な中長期的視点のやや曖昧なメッセージも、投資家には「日本の企業ならでは」と容認されているかもしれません。ただ、グローバル企業でステークホルダー・リレーションズを担当されている方や、そういった企業のためにコミュニケーションツール制作を請け負っている制作会社の方であれば、このような欧米的なメッセージ発信の方法をもっと研究されてもよいのではないでしょうか。
 
仮に社長メッセージが "Aiming to ..." というヘッドコピーで始まっていたとしても、それだけで投資家に「ボーっと経営してんじゃねーよ!」と叱られることはないでしょう。しかし、巷に氾濫している画一的な決め台詞よりは、経営者自身の個性や信念が感じられる具体性のあるコピーを用いた方が、ステークホルダーの目や心を惹きつけやすいことは確かでしょう。
 

次の機会には、ありきたりの日本語原稿でも、翻訳の工夫次第で多少魅力的に聞こえるようになるというお話をさせていただきたいと思います。
 

(了)