COLUMN

 
 
2021.12.07

 

Is Your Aim True?──
「目指します」の英語表現について考える

2021.12.07

 

Is Your Aim True?─「目指します」の英語表現について考える

Is Your Aim True?──「目指します」の英語表現について考える

デザインクラフトでは、今年も企業の統合報告書や経営計画レポートなどの翻訳や英文デザインの仕事をいくつかさせていただきました。そんな中で相変わらず気になるのが、「〜を目指します」という日本語原稿の多さです。これについては、以前にもこのコラムで取り上げましたが、その時の記事*では英語版社長メッセージページでの「〜を目指して」という英訳見出しのマンネリズムを指摘し、編集やデザイン視点から別の「見せ方」をご提案しました。今回は「〜を目指す」の英訳表現について、翻訳・トランスクリエーションの視点から考えてみました。
 
2019/9/9付「海外投資家に叱られる? ─ “We aim to ...” の、“Aiming to ...” だのと言っている日本の社長メッセージの何と多いことか……」

 日本企業はなぜ「〜を目指す」のか?

 

日本企業はなぜ「〜を目指す」のか?

 
日本企業の統合報告書や、経営方針/経営計画などのプレゼンテーションで「〜を目指します」という表現が多いのには、二つの要因があると思います。一つ目は、日本の上場企業に中期経営計画(中経)の策定・開示が求められていることです。中経では3~5年先の計画を立てるわけですが、日進月歩の今の時代、3〜5年先のこととなると、あまり具体的なことは言いにくくなってきます。したがってその言葉遣いは、「計画」というより、どうしても「目標」に近いものになってきます。欧米(特に米国)の経営者の場合、年次の経営レポートなどで何年も先の具体的目標を提示することはあまり多くありません。四半期報告が義務化され、短期で結果を出さなければ首をすげ替えられる恐れのある米国の上場企業経営者は、「〜を目指して」などと悠長なことは言っていられないのかもしれません。
 
二つ目は、日本人特有のメンタリティです。よく言われることですが、日本人は欧米人ほどはっきりとした物言いをしない傾向があります。これには、武士による封建制度が長く続いた歴史や「恥の文化」といわれる文化的背景があると思われますが、日本人には「責任を曖昧にする」あるいは「逃げ道を作っておく」傾向があると言えるのではないでしょうか。仮に、中期経営計画で発表した(ある程度先の)数値目標が達成できなかったとしましょう。「目標を目指すと言っただけで、達成するとは言っていません」という言い訳が許されるというマインドが、日本人にはある程度無意識に植え付けられているのかもしれません。

「Aim〜」はネイティブにどう響く?

 

「Aim〜」はネイティブにどう響く?

 
「〜を目指す」の英訳として、日本企業の統合報告書や中計などの英語版で最もよく目にするのが、「aim」を使った表現です。例えば、「Aiming to become a truly global company」(真のグローバル企業を目指して)、「We aim for sales of 450 billion yen for the current fiscal year」(今年度の売上高4,500億円を目指します)、といった例です。
 
「Aim」という言葉自体は、英語のネイティブにとっても特に違和感のある言葉ではありません。近い目標から遠い目標まで幅広く使える単語です。ただ、問題はその使用頻度です。一つのレポートに何度も何度も「aim」が出てきたとしましょう(多くの日本企業のレポートで「目指す」を全て「aim」と訳せば、かなりの数になるでしょう)。英語版の読者は「何もかも『aim』と言っているこの企業は本当に目標を達成できるのだろうか?」と不安になってしまうかもしれません。「Aim」を連発することで、この言葉が空虚に響いてしまうのです。

「Aim」以外の「目指す」の訳し方

 

「Aim」以外の「目指す」の訳し方

 
「目指す」は、「aim」と訳す以外にも、前後の関係や置かれている状況によってさまざまな英語表現が可能です。では、実際、英語圏の企業は「〜を目指す」状況でどのような表現を用いているのでしょうか?
 
デザインクラフトではアメリカの某有名ビジネススクール(MBA)の経営ケースメソッド教材の英文和訳を数年来担当していますが、つい最近翻訳したあるIT系ベンチャー企業のケーススタディ教材に、その会社が「目指す」状況が描写されていました。スタートアップ企業なので、当然さまざまな目標を「目指す」わけですが、1万ワード以上ある英文原稿内に「aim」という単語は1カ所も使われていませんでした。その代り、随所に出てくる創業者たちの言葉の中で頻繁に用いられていたのは、「goal」という言葉でした。例えば、次のような表現です。
 

Our goal is to become the ‘go-to’ destination for all of your health support needs.
当社では、お客様の健康支援に関するあらゆるニーズを満たす「頼れる」場所になることを目指しています。
 
Our goal is for our customers to feel secured.
私たちが目指しているのは、お客様に安心を感じていただくことです。
(当社の目標は、お客様に安心感をお届けすることです)
 
※英文は原文を参考に例示用に編集しています。

 
この例で「Our goal is」の部分を「We aim」と置き換えることも可能ですが、「Our goal」を使った方がより自然で、より力強い響きがあります。こういった力強い表現は、日本企業の社長メッセージの見出しコピーでよく使われる「〜を目指して」の英訳として有効ですし、「目指す」内容がある程度具体的に絞られている場合には、「goal」の代りに「focus」を使った表現も可能です。このほか「目指す」を表現するのに次のような単語や熟語も使えますので、「aim」に偏らないように使い分けると良いでしょう。
 

・work toward
・strive
・seek

 
上の三つにはいずれも「(〜を目指して)頑張る」というニュアンスがありますので、あまり多用すると、「aim」同様、若干「逃げ腰」に聞こえてしまうかもしれません。その点、次の二つは、もう少し意志の強さを感じさせることができる表現です。
 

・(be/remain) committed to
・(be/remain) determined to

 
ニュアンスとしては、社長メッセージなどの和文原稿でよく使われる「〜してまいります」に近い感じです。ただ、強い「決意」を表すニュアンスがありますので、あまり連発しすぎると真実みに欠けて聞こえるかもしれません。このほか、かなりの確率で達成できそうな目標であれば、未来形の助動詞「will」を直接使う方法もあります。ただし、「will」はかなり明確な意思を持って「〜していく」という言葉なので、例えば、「We will build a foundation for our business」(経営の基盤づくりを目指していきます)といった文には有効ですが、「持続可能な社会を目指します」といったやや抽象的な目標を掲げた場合、「We will realize a sustainable society」などと訳すのは少し考えものです。ネイティブの感覚からすると「どうやって実現するつもり?」と突っ込みたくなってしまうかもしれません。

見出しでは「目指す」を訳さない方が自然な場合も

 

見出しでは「目指す」を訳さない方が自然な場合も

 
ESG経営が重要視される近年、多くの企業の統合報告書などで、「持続可能な社会を目指して」というコピーがよく見られます。実際、ESGセクションや社長メッセージの見出しや小見出しにもよく使われていると思います。この英訳としてよく見受けられるのが次のようなフレーズです。
 

「持続可能な社会を目指して」【翻訳】
 
・Aiming for a Sustainable Society
・Toward a Sustainable Society
・Toward the Realization of a Sustainable Society
・Toward Realizing a Sustainable Society

 
日本企業の英文レポートの見出しでは、「aim」と同じくらいよく使われているのが、「Toward 〜」という表現です。上の各フレーズは、翻訳としては何の問題もありません(後の二つは、良し悪しはともかく、多少意訳もされています)。もしあなたが「翻訳」として仕事を発注されているのであれば、この英訳に注文はつけないでいただきたいです。ただ、見出しコピーとして訴求力があるかと言えば、それは別問題です。上記は、いずれもどちらかと言えば平板で、やや堅い印象もあります(元の日本語が平板なので仕方がないのですが……)。なぜ、堅く、平板に聞こえるのか? それは、「目指す」を訳出することで、何か漠然とした「人ごと」的な雰囲気、強いて言えば「役所的」な雰囲気が醸し出されるからです。実際、こういったコピーは海外でも国際機関などではよく使われています。
 
しかし、内容やテーマが将来の目標のことであれば、敢えて「目指す」と言わずとも目標であることは伝わりますし、その方がより簡潔なコピーになり、力強く響くはずです。例えば、私どもであれば(本文の内容にもよりますが)次のようにトランスクリエーションします。
 

「持続可能な社会を目指して」【トランスクリエーション】
 
・Creating a Sustainable Future
・Actions for a Sustainable Society
 
※トランスクリエーション:「translation(翻訳)」と「creation(創造)」を合わせた言葉で、メッセージの意図や文脈を維持しながら、ある言語から別の言語にメッセージを適応させるプロセス。

 
「目指す」の直接的な訳出を避けることで、表現が簡潔になり、より力強く響くのではないでしょうか。

言外に分かる内容は、見出しから省く

 

見出しでは「目指す」を訳さない方が自然な場合も

 
見出し/小見出しの英訳に関しては、もう一つ私たちが普段から留意していることがあります。それは、単語の重複をなるべく避けるということです。日本企業のレポートや説明会資料は、欧米のそれに比べて必要以上に見出し/小見出しが多いのが特徴ですが、その上に複数の見出しレベルで同じ言葉が繰り返されるケースがよくあります。例えば、次のような例です。
 

【和文版の見出し】
 大見出し:企業価値の向上を目指して
 小見出し:社会価値の向上
 
【A: 単なる翻訳】
 大見出し:Aiming to Enhance Corporate Value
 小見出し:Enhancing Social Value


この例では、原稿全体が「価値の向上」について述べていることは大見出しから自明です。ですから、【A】のように「向上」の英訳「enhance」を小見出しでまた繰り返すのは少々野暮です。また、「向上」について語っている時点で、それを「目指して」いることも察しが付きますから、「目指して」の訳は大見出しから割愛しても問題はありませんし、その方がむしろ簡潔で力強く響きます。
 

【B: 重複を避けたトランスクリエーション】
 大見出し:Building Enterprise Value
 小見出し:Social Value

 
上の【B】ような英語表現にすることで、コピーとしての訴求力アップ以外にも、レイアウト上の省スペース化につながります。通常、英文は同じ意味の文章でも和文より物理的に長くなります。統合レポートなどでは、文章や図表など詰め込みぎみのレイアウトが多いですが、そのような日本語版のレイアウトにただ単純に翻訳した英文を入れ込んでしまうと、非常に窮屈で読みにくい紙面になってしまいます。日本語版と同じレイアウトを使って英語版を作成するのであれば、そういった点にも留意する必要があります。
 
せっかく苦労してまとめ上げたレポート、海外のターゲット層にも本来の「狙い」が的確に伝わるよう、その英語表現にも気を付けたいものです。
 

(了)

デザインクラフトでは、英文アニュアルレポート/統合報告書、英文パンフレット/ブロシュアのデザインのほか、和文から英文への差し替えレイアウトなどのご相談も承っております。企画からライティング、翻訳、デザイン〜DTPまで、ワンストップでの対応も可能です。詳細をお知りになりたい方は、Contactよりお気軽にお問い合わせください。

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Author

筆者:吉田周市
デザインクラフト代表。クリエイティブディレクター/翻訳者。海外広報専門の制作会社に12年在籍し、大手広告会社、証券系IR会社、電子部品メーカー、金融機関、経済メディア、官公庁、国際機関、在日大使館などを主要クライアントとして英文広報・IR関連のクリエイティブ業務・翻訳業務に携わる。2008年に現事務所を立ち上げ、以来、京都を拠点に多言語でのPR/IRクリエイティブの企画・制作と翻訳業務を続けている。
主な訳書

新標準・欧文タイポグラフィ入門 プロのための欧文デザイン+和欧混植
ハリウッド映画の実例に学ぶ映画制作論 - BETWEEN THE SCENES
PICTURING PRINCE プリンスの素顔

など。