BLOG

9/3/2020

 

文章の中心で、社名をさけぶ !? ──
オールキャップス(全て大文字)の固有名詞表記って実際どうなの?

日本企業の英訳の仕事をさせていただく中で、お客様から「うちの英文社名は全て大文字表記です」などと言われることがよくあります。しかし、このような大文字ばかりの社名や商品名の表記は、英語圏においても一般的なのでしょうか?

誤解の原因はロゴタイプとの混同、もしくは定款での英文表記??

 

一般に名の通った日本企業の中にも、英文社名の全部または一部を全て大文字(オールキャップス)表記にしている会社は結構あります。例えば、無作為に挙げただけでも、「FUJIFILM Holdings Corporation」(富士フイルムホールディングス)、「DOWA HOLDINGS CO., LTD.」(DOWAホールディングス)、「IRIS OHYAMA Inc.」(アイリスオーヤマ)などなど。これらの企業の英文媒体を見てみると、見出しだけでなく文章の中でもオールキャップスの社名表記が使われています。
 
このような英文社名表記が日本に多い理由の一つとしてまず考えられるのは、ロゴタイプとの混同です。ロゴタイプは、さまざまな視覚的効果を考慮した上で、デザイナーが創作した一種の書体デザインですが、それはあくまで社名のデザイン表現であって文章の中でその表記を踏襲すべきものではありません。例えば、強固なブランドプレゼンスを誇っているビザやロレックス、ナイキのロゴタイプはいずれもオールキャップスのデザインですが、いずれの企業も自社の英語サイトの文章内で自社の社名やブランド名をオールキャップ表記にすることはありません。
 
もう一つ考えられるのは、会社の定款に書かれている英文社名表記がオールキャップスになっているからという理由です。定款の英文社名表記が法律的にどの程度重要なのかについては、法律の専門家でないのでわかりません。公文書の類であれば、そういった配慮は必要かもしれません。しかし、広報や広告的な主旨の文章にそれは必要でしょうか? もしもそういった主旨の文章においても定款の英文社名表記を踏襲しなければならない必然性があるのだとすれば、オールキャップス表記については、下記に説明するような理由から、定款を作成する時点でよく検討された方がよいでしょう。
 
また、日本企業の英文広報出版物では、第三者として他の企業名を取り上げる場合にも、当該企業に倣ったオールキャップス表記がよく見られます(同様に小文字ばかりの場合もあります)。しかし、こういった場合に本当に大事なのは、当該企業が(時に間違った解釈で)慣習的に用いている不自然な表記方法を踏襲することではなく、自分たちの媒体の中での表記統一を図ることです。なぜなら、その方が読者にとって読みやすいものになるからです。例えば、世界的なブランドである資生堂は、そのブランド名としての英文表記を「SHISEIDO」というオールキャップスにしているケースが多いようです(社名としては「Shiseido」が使われています)。しかし、海外の一流メディアが、この化粧品ブランドの英文名をオールキャップ表記にすることはまずありません。
 

資生堂サイトではブランド名をオールキャップスで表示。一方、一般の英文メディアでは「Shiseido」と表記されている。

そもそも大文字と小文字の違いって何?

 

そもそも英語の大文字と小文字の違いとは何でしょうか? それは、少し極端な言い方をすれば、和文において明朝体を使うかゴシック体を使うかの違いのようなものです。どちらを使うかについては、本来はあくまでも編集者やタイプセッターに委ねられています。古英語の時代(5〜12世紀初頭)には、アルファベットに大文字と小文字の区別はなかったといいます。中英語時代(12~14世紀頃)になっても、特に文法的な決まりはなく、例えば、詩文の冒頭の文字を大文字にするといった見た目の感覚としての使い分けが人によってなされていた程度だったようです。しかし、その後、印刷術が発明され、それが発展するに伴って、英語においては文の冒頭の文字と固有名詞の冒頭の文字を大文字にするというスタイルが浸透していきました。
 
ある種のルールとなったこういった用法は、基本的には全ての英語に当てはまるものですが、新聞・雑誌の見出しや広告などでは、このルールを大原則としつつも、視覚的観点からいくつかのパターンが使われています。文頭の文字と固有名詞の頭文字のみを大文字にするセンテンスケース(イギリスで主流)、冠詞・前置詞・等位接続詞以外のすべての単語の頭文字を大文字にするタイトルケース(アメリカで主流)*のほか、オールキャップスももちろん使われていますし、近年では全て小文字を用いるケースも多くなっています。このうちどれを使うかは、前述のように、それぞれの視覚的効果や掲載媒体のルールに則って編集者やタイプセッター、ページデザイナーが決めています。
 
もっとも、このような裁量が許されるのは、タイトルや見出し、箇条書きなどの独立した原稿の場合であって、文章においては、特別な意味づけがない限り、原則外の表記が用いられることはまずありません。なぜなら、原則外の表記をすると非常に読みにくくなる上、本来意図しないニュアンスを原稿が持ってしまう場合があるからです。

 

* タイトルケースの場合にどの単語の頭文字を小文字にするかの規定は、編集スタイルガイドによって多少異なります。上記はもっとも一般的な『The Chicago Manual of Style』(シカゴ・マニュアル)の例です。

 オールキャップスの特徴とは?

 

トランプ大統領は、ツイッターにオールキャップス表記を多く使うことで有名だが……

 
 
では、オールキャップスにはどんな特徴があるのでしょうか? ウィキペディアに掲載されている項目の説明が比較的わかりやすいので、そちらを引用してみましょう(原文は英語)。
 

All caps
 
タイポグラフィにおいてオールキャップス("all capitals"(全ての大文字)の略)とは、"TEXT IN ALL CAPS"といったように、全ての文字が大文字になっているテキストもしくはフォントをいう。これは時に(単語やフレーズの)強調のために用いられ、法律文書、本の表紙タイトル、広告、新聞の見出しなどでよく見受けられる。全て大文字で書かれている単語の短いつながりは、大文字と小文字の両方で書かれている場合に比べてよく目立ち、「うるさく」(louder)見える(「スクリーミング」(screaming)あるいは「シャウティング」(shouting) などと呼ばれる状態)。また、オールキャップスは、その語が頭字語(acronym)であることを示す意味で使われることもある。
 
オールキャップス・テキストの可読性と視認性についてはさまざまな研究が行われてきたが、20世紀以降の科学的検証によると、一般に小文字の場合よりも可読性・視認性に劣るとされている。また、オールキャップスにした場合、威圧的あるいは不快な感じに見えることがある。これは文化的な理由によるもので、オールキャップスは会話を書き起こす際に大声で叫んでいる状態を示す意味で使われることが多いためである。オールキャップス表記は、漫画本でよく使われるほか、(大文字・小文字の区別がないことが多い)古いテレタイプ端末や無線伝送システムでは一般的な表記法であった。
 
Wikipediaページ:「All caps」より引用
翻訳: デザインクラフト

問題点1:オールキャップスの名前は頭字語を連想させる

 

上のウィキペディアの説明文の中で最初に留意すべきは、1段落目の最後に出てくる「頭字語」(acronym)についてです。頭字語というのは複数の単語から構成される言葉の頭文字をつなげた単語で、例えば次のようなものです。
 

    • WHO(World Health Organization)
    • ATM(Automated teller machine)
    • HTML(Hypertext markup language)

 

    • UNESCO(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)
    • AIDS(Acquired immune deficiency syndrome)
    • JPEG(Joint Photographic Experts Group)

 
上の例のうち、上段は「ダブリュー・エイチ・オー」のように個々のアルファベットの読み方をそのまま発音する「イニシャリズム」と呼ばれるもの。下段は「ユネスコ」のように通常の単語と同じように発音するもので、後者で読まれる用語は、当然ながらそのように読みやすいスペルになっています。(例えば、母音のない「HTML」の場合、通常の単語のようには読みようがありません)
 
頭字語を使った社名・団体名は日本にもたくさんあります。例えば「NTT」「NHK」「TDK」「YKK」などがそうです。ここに挙げた法人名の場合、いずれも通常の単語のようには発音しにくいスペルなので、イニシャリズムでの読み方となります。当然のことながら、欧米にも頭字語の社名はたくさんあります。例えば……
 

    • IBM(International Business Machines)
    • HSBC(The Hongkong and Shanghai Banking Corporation)
    • GEICO (Government Employees Insurance Company)
    • SAP(SystemAnalyse und Programmentwicklung(ドイツ語から))

 
これらの例から、欧米の人たちがオールキャップスの固有名詞を見た場合、それを何らかの頭字語(何かの略称)と認識したとしても不思議ではないでしょう。例えば、前述の日本企業の名称例の一つ「DOWA HOLDINGS CO., LTD.」の「DOWA」は英単語にはない単語です。そのため、これを頭字語と勘違いして「ディー・オー・ダブリュー・エー」と読んでしまったり、「ドーワ」と読んだとしても何らかの頭字語と想像する人がいたとしても不思議ではありません。そして、それはブランド認知という意味において、あまり得策ではないように思えます。
 

 

米大手自動車保険会社GEICOの企業情報ページ(右)では、社名が何の略(頭字語)に由来するかが説明されている。

 問題点2:オールキャップスは可読性・視認性に劣る

 
二つ目の問題は、前述のウィキペディアの説明の2段落目にある、「オールキャップスのテキストは小文字のテキストよりも可読性・視認性に劣る」という点です。これについては、論理的な説明が可能です。英語の大文字は、基本的に全ての文字が同じ高さ(=キャップハイト)になっています。一方、小文字の場合、「エックスハイト」と呼ばれる標準の高さを基準にして、上にはみ出す部分(=アセンダー)がある文字や下にはみ出す部分(=ディセンダー)がある文字があります(欧文タイポグラフィにおける『オーバーシュート』」参照)。そのため大文字と小文字が混在する文では行の高さに凸凹ができますが、大文字ばかりだと高さが均一になります。前者の場合、人の目は文字の形(凸凹)からアルファベットを無意識に判断することによって瞬時に単語を認識できるのですが、凹凸がないオールキャップスの文の場合、単語の認識が遅れてしまいます。
 

 
これを単語レベルで考えた場合、恐らく4文字くらいの単語までならほとんど問題はないでしょう。「IBM」「HSBC」「GEICO」くらいの長さであれば、凹凸のありなしを特に意識することなく一目で単語(この場合、社名)を認識できます。しかし、「UNESCO」くらいの長さになると若干遅れるかもしれません。ユネスコの場合、世界的に知られている組織なので、その単語を読み手の頭の中にあるデータベースに一致させるのに時間は掛からないでしょう。しかし、これが日本語由来の見慣れないオールキャップスの社名だったらどうでしょうか? 日本人でなければ、その単語を認識するのには一定の時間が必要になるでしょう。
 
例えば、「FUJIFILM」という単語を見たとして、一般の外国人が「フジ・フィルム」と認識するには少し時間がかかるかもしれません。(ちなみに、富士フイルムの場合、自社の発行媒体の中でもオールキャップスになっていたり、なっていなかったり一見したところ統一が取れていないように見えます(ある種の規定はあるかと思われますが……)。せめて「FUJI FILM」と2ワードになってていればもう少し認識されやすかったと思うのですが、なぜ1ワードになったのか不思議です)

 問題点3:声高に叫んでいるような印象を与えてしまう

 

 

 
頭字語以外の固有名詞を文章中にオールキャップスで用いる最大の問題点──それは、その単語を声高に叫んでいるような印象を与えてしまうことです。上記のウィキペディアの説明でも言及されているように、文章中のオールキャップスはもともと会話文の中で大きな声を出していることを表現するために使われることが多く、強調の意味で使うボールドタイプ(太字)や感嘆符「!」に近い性格を持っています。
 
この特性は、その言葉に特別なインパクトを持たせて強調したい場合には有効です。例えば、"NOTICE" や "WARNING" といった注意喚起にはオールキャップスがよく用いられますし、"This product is completely NEW."(これは全く "新しい" 製品です)などと書けば、自信を持って「新しい!」といえる製品というニュアンスになります。また、アメリカのトランプ大統領は自身のツイッターの中でオールキャップ表記をよく使うことで有名ですが、これは彼の高慢さに満ちたスピーチスタイルをそのまま反映したものといえ、あえて言えば「低俗」な印象すら受けます。(前掲の画像参照)
 
このようなニュアンスを持つオールキャップスを文章中の社名表記に使い、しかもそれが同じ文章中に繰り返し出てきたとしたらどうでしょう? 「我が〇〇社は!」「我が〇〇社は!」と事あるごとに威張り散らす、尊大な会社──英語ネイティブの目には、そんなふうに映ってしまうかもしれません。とりわけ、「Z世代」(Generation Z または Gen Z)と呼ばれる、90年代後半〜2000年代以降生まれのデジタルネイティブ世代を対象とするブランドの場合、これは致命傷になりかねません。この世代は物心ついた頃から片手で扱うスマートフォンでのコミュニケーションに慣れており、大文字を打つことが少なくなっています。さらに、小文字の方がカッコいい(cool)という感覚を持っている場合が多く、SNSなどでは、"hey, i miss u" といったふうに、本来大文字を使うべきところにさえ小文字を使うようになっています。彼らがオールキャップスを使う場合、それは何らかの「スクリーミング」(叫び声)であって、大文字だけのブランド名が文章中に何度も出てくれば、それは彼らの目にはとても「うざい」ものに映ってしまうことでしょう。

スタイルブックの規定は?

 

英文の編集スタイルガイド(出版社や学術雑誌などで用いられる用字ガイド)では、このようなオールキャップスの固有名詞について何か規定はあるのでしょうか? アメリカの代表的なスタイルガイド『シカゴ・マニュアル・オブ・スタイル』の最新版(第17版)を確認してみたところ、「8.69: Corporate names with unusual capitalization」(通常とは異なる大文字の扱いをしている会社名)という項目がありました。この項では、主にロゴが小文字で始まるインテルやアディダスのような社名について言及しており、次のように書かれています。
 

Corporate names that appear in all lowercase in logotype and other promotional settings can often be capitalized in the usual way.
ロゴタイプなど広報宣伝活動上の使用において全て小文字表記されている企業名においては、大抵の場合、通常と同様の大文字表記を行ってよい。

 
その上でこの例として、「intel」ではなく「Intel」、「adidas」ではなく「Adidas」とした方が良いと示されています。一方でオールキャップスについては、ただ1文次の記述があるだけです。
 

A preference for all uppercase should be respected.
全て大文字での記述が好まれる場合は、それを尊重すべきである。

 
この項でこれに相当すると思われる例としては、「RAND Corporation」が示されているだけです。「RAND Corporation」の「RAND」は「Research ANd Development」の頭文字をとった頭字語的な造語であり、このような造語を当該企業がオールキャップ表記にしているのであれば、それは尊重すべきということなのでしょう。
 
一方、米国のAP通信が編纂・発行するスタイルガイド『APスタイルブック』では、例えば、イケアは「IKEA」ではなく「Ikea」、中国のIT企業ASUS(エイスース、“ペガサス=Pegasus”の最後の四文字が由来とされる)も「ASUS」ではなく「Asus」とした方がよいとなっているようです(出典:"How To Include AP Style Company Names in Your Writing - BKA Content"

 

イケアの表記はメディアによってまちまち。基本にしているスタイルブックの違いによるものと思われる。

 
 
上の例で挙げた社名はいずれも造語ですが、ローマ字表記の日本企業の社名は英語圏の人にとっては造語に近いものともいえます。そう考えれば、オールキャップの表記も考えられなくはありませんが、それでも違和感があるのは本来の英単語をオールキャップ表記にしている社名です。最初に挙げた「DOWA HOLDINGS CO., LTD.」のほか、「KDDI CORPORATION」、「NTT DATA Corporation」、「BEST DENKI Co., Ltd.」といった例のほか、中には「Co., Ltd.」(Company Limitedの略)の部分だけをわざわざ「CO., LTD.」と大文字にしていたり、逆に「co., ltd.」のように全て小文字にしている会社もあります(日本企業の東南アジアの現地法人などによく見受けられるようです)。これらの不自然な表記の社名についても、名の通った英文メディアの記事では当然ながら普通に「KDDI Corporation」「NTT Data Corporation」「Best Denki Co., Ltd.」とキャップ&ロウ(頭文字のみ大文字)の形で表記されています。
 

(了)

Author 筆者:吉田周市
デザインクラフト代表。クリエイティブディレクター/翻訳者。海外広報専門の制作会社に12年在籍し、大手広告会社、証券系IR会社、電子部品メーカー、金融機関、経済メディア、官公庁、国際機関、在日大使館などを主要クライアントとして英文広報・IR関連のクリエイティブ業務・翻訳業務に携わる。2008年に現事務所を立ち上げ、以来、京都を拠点に多言語でのPR/IRクリエイティブの企画・制作と翻訳業務を続けている。主な訳書に『新標準・欧文タイポグラフィ入門 プロのための欧文デザイン+和欧混植』、『ハリウッド映画の実例に学ぶ映画制作論 - BETWEEN THE SCENES』、『PICTURING PRINCE プリンスの素顔』など。


デザインクラフトでは、英文アニュアルレポート、統合報告書、プレスリリースなどの原稿翻訳のほか、英文でのオリジナルデザイン、和文から英文への差し替えなど、デザイン〜DTPのご相談も承っております。『シカゴ・マニュアル』の英文編集スタイルルールにも精通しています。詳しくお知りになりたい方は、Contactよりお気軽にお問い合わせください。