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2022.11.12

 

サステナビリティ、ESG、社会貢献...
その「活動」の英訳、本当に「activities」でいいの?

2022.11.12

 

サステナビリティ、ESG、社会貢献...その「活動」の英訳、本当に「activities」でいいの?

サステナビリティ活動、ESG活動、社会貢献活動

統合報告書やサステナビリティレポートによく出てくる単語の中で、英訳に際してトリッキーと感じるものの一つに「活動」という語があります。「サステナビリティ活動」「環境保全活動」「社会貢献活動」から「事業活動」「広報活動」まで、かなりの頻度で登場する単語です。この「〜活動」という熟語は、多くの場合、「〜 activities」と英訳されていますが、実は「活動」の前にくる単語によっては英語ネイティブにとってあまり馴染みがない表現になってしまうことがあります。今回はそういった例を見ていきましょう。

 単語「activity」で連想されるイメージは、楽しいイベント!?

 
試しに、Googleの英語版で「activities」と入力して画像検索をしてみました。その結果が下左の画像です。上位に表示されるのは、ほとんどが子供たちの「課外活動」(extracurricular activity)もしくは時間の「楽しい過ごし方」に関連するような画像で、日本語でもそのまま「アクティビティ」と言い換えることができる内容です。
 

 
Google英語版で「activities」を画像検索してみると、表示されるのは、ほとんどが子供向けの「アクティビティ」(左)。右は「corporate activities」での検索結果。

 
 
日本企業がコーポレートレポートなどで使う、企業としての「活動」にもう少し近い結果を得られないか、「corporate activities」でも画像検索をしてみました。その結果が画像の右側です。ほとんどの画像が社員の親睦を図る「イベント」、あるいは、やはり「アクテビティ」的なもので、「企業活動」という日本語からイメージするような、ビジネスそのものや企業が行う社会的な取り組みに関連する画像は見つかりません。

本来、英語の「activity」という語は「何かが動いている状態」を表す名詞です。ウェブスターの辞書でも一番最初に出てくる定義は、「the quality or state of being active: behavior or actions of a particular kind」(活発な性質または状態: 特定の種類の行動または行為)となっています。その意味では日本語の「活動」と基本的に同じで、「activity」の日本語訳としては、専門的な領域の言葉以外は、「活動」が相応しいと言えるでしょう。

逆もまた然りで、「活動」自体の英訳としては基本的に「activity」で問題ありません。ただ、問題は「〜活動」と熟語になった場合です。上の「企業活動」vs.「corporate activity」の例のように、日本語では「活動」と組み合わせて使うことが一般的でも、英語では「activity」との組み合わせが一般的でなかったり、日本語と同じような意味にならなかったりすることがあるのです。

企業の「環境活動」は「Environmental Activities」と言うのか?

 
企業の「環境活動」の英訳は?

 
最初の例として、企業の統合報告書などで必ずと言ってもいいほどよく出てくる「環境活動」という熟語を見てみましょう。この日本語をGoogleで検索してみると、上位に表示される結果はほとんどが企業の環境保全への取り組みを紹介するページです。一方、英語版Googleで「environmental activities」を検索すると、上位に表示される項目のほとんどが、青少年が課外授業として行うような、環境保全をテーマとした「イベント」もしくは「アクティビティ」です。

AIが判断しやすいよう、表現をもう少し明確にして「環境保全活動」の趣旨で「environmental conservation activities」で検索すると、ようやく企業の環境保全への取り組みに相当する内容が出てきます。ただし、この英熟語をそのまま使っているサイトは、ほとんどが日本企業の英文サイトです。ということは、欧米の企業は環境保全に積極的ではないのでしょうか?

もちろん、そんなことはありません。試しにアメリカの大手企業の例としてゼネラルモーターズ(GM)社の『Sustainability Report』(2021年版)を見てみました。当然ながら、環境に優しい車の開発から、環境保護団体への協力まで、さまざまな形で環境保全に向けた取り組みが紹介されています。必然的に「environmental」という形容詞が頻出し、「targets」「requirements」「compliance」「commitments」「awareness」などなど、数多くの名詞と組み合わさって熟語になっていますが、この120ページを超えるレポートに「environmental activities」という熟語は、(単数の「activity」も含め)一つもありません。「environmental」と「activity」が、日本企業が言う「環境活動」の意味で組み合わさることはないのです。
 
 

 
ゼネラルモーターズ(GM)社のサステナビリティレートでも、「environmental activities」という表現は使われていません。

 
 
そもそも日本語の「活動」も英語の「activity」も、上述の辞書の定義からすれば、非常に幅広い事例に対して使うことができます。よく考えてみれば、日本語の「環境活動」も、それが具体的にどんな活動なのかは前後の文脈によって変わってきます。英語の場合、「環境」と「活動」をくっつけて、非常に幅の広い曖昧な表現をするのではなく、環境に関して何をするかをより具体的に表現する言葉を使う方が一般的だと言えるでしょう。

先のGMのレポートでも、日本企業であれば「環境活動」としそうな章のタイトルが「Designing for the Environment」となっています。直訳すると「環境のための企画(設計・計画)」となるように、「活動」と言う表現よりも具体的です。この章には、環境に優しい製品の企画開発に限らず、廃棄物の削減や自然保護の取り組みを紹介するページも含まれていますが、このうち、日本企業であれば「自然保護活動」としそうな、自然保護への具体的取り組みを紹介するページのタイトルは「Nature Conservancy Programs」、その中で紹介されている、野生生物保護やリサイクルの取り組みなどを含めた一連の学校向けプログラムについては、「hands-on environmental projects」という表現が使われています。「活動」の幅によって「project」や「program」などを使い分けているわけです。


日本企業が「環境活動」と一括りにしそうな「環境保全に向けた企業としての取り組み」に当たる表現はないかこのレポート内を探してみると、おそらく最も近いのは、「environmental commitments」という熟語でしょう。ちなみに、前年のレポートでは、同様の章の表題が「Environmental Governance」となっていました。もちろんこの場合は、「企業として環境への負荷をいかに管理するか」という視点で文章がまとめられています。

「サステナビリティ活動」に当たる英語は?

 
「サステナビリティ活動」に当たる英語は?

 
環境に限らず、「ESG」(環境・社会・ガバナンス)を包含する企業の取り組みを紹介する際によく使われる表現が「サステナビリティ活動」です。この英訳として「sustainability activities」という表現を使っている日本企業も多いようです。しかし、この場合も、その英語からイメージされるのは、子供向けを中心とした「サステナビリティに役立つ『アクテビティ』」です。

では、「サステナビリティに向けた企業の取り組み」は、どう表現されているのでしょうか? 先のGMレポートでも、その具体性によって「sustainability efforts」「sustainability strategy」「sustainability projects」「sustainability programs」などさまざまな表現が見られますが、おそらく日本企業が言う「サステナビリティ活動」に最も近く、かつ一般的な表現は、「sustainability initiatives」でしょう。

「Initiative」という単語は、英和辞典を見ると「手始め」「率先」「先導」といった意味が上位に出てきますし、日本語でも「イニシアチブを取る」などと言いますが、ここで言う「initiative」は「構想、戦略、計画」に近い意味です。もう少し噛み砕いて言うと「自分たちが積極的に行おうとしている取り組み」のニュアンスなので、企業が行おうとしているこの種の取り組みにはまさにピッタリの言葉です。実際、政府や国際機関が行うある種の取り組みを指す際によく使われており、日本語では「〜構想」と訳されていたり、既存の日本語に少し当てはめにくいせいか、「〜イニシアチブ」とカタカナ表記されることも多いようです。

前述の「環境活動」や「ESG活動」についても、それが包括的な取り組みを指すのであれば、「environmental initiatives」や「ESG initiatives」と言って差し支えありません。また、会社としての明確な戦略や方針について言及しているのであれば、「strategy」や「policy」といった語を使うのも良いでしょう。

「社会貢献活動」は「Social Contribution Activities」と言うのか?

 
企業のCSRやサステナビリティ活動において、もう一つ頻繁に出てくる熟語が「社会貢献活動」です。ボランティアでのゴミ拾いや植林プログラム、教育や社会福祉への寄付や支援など、社会の一員としての企業の取り組みを紹介する際によく使われる言葉です。
 
この英訳を、多くの日本企業があまり疑うこともなく「social contribution activities」としているのですが、実はこのような表現は、通常、英語圏では用いません。 下の画像は、Google英語版で「social contribution activity」を検索した結果ですが、上位に表示されるのは、見事なまでに日本の有名企業ばかりです。私どもの複数のアメリカ人スタッフに「『social contribution activities』という言葉から、どんなものをイメージする?」と聞いてみたところ、いずれのスタッフからも「イメージも何も、そんな言葉はとにかく使わない」という答えが返ってきました。
 

 
「social contribution activities」という英語で検索して出てくるのは、日本企業の英語サイトばかり。

 
 
では、このような「活動」を英語ではどう表現するのか? これもその内容や範囲によるのですが、例えば、ゴミ拾いや地域イベントへのボランティア参加などを一括りにしてそれに言及するのであれば、「social action projects」や「community suppport」などと言うのが一般的です。また、もっと幅広く「社会全般に対しての企業としての取り組み」という主旨であれば、前後の文脈にもよりますが、やはり「corporate social responsibility (CSR)」と言うのが最もしっくりくるようです。

「社会への貢献」というタイトルはどう訳す?

 
「社会への貢献」へ英語で何と言う?

 
コーポレートレポートでは、セクションやページの表題として「社会への貢献」という表現もよく使われます。これについては、「Contribution to Society」という英訳を使っている企業を多く見かけますが、これも「そんな言葉はとにかく使わない」という類いの和製英語です。

では、どんな表現をするのか? ネイティブの意見を聞いてみたところ、タイトルにするのであれば、例えば、次のような言い方が自然だと言います。このうちどれが最も適切かは、当然、そこに書かれている内容やレイアウト上のスペース、他の見出しとの統一性などによって変わってきます。
 
    • Giving Back to Society
    • Being a Good Corporate Citizen
    • Doing Our Part for the Public Good
    • Social Responsibility

 
ちなみに、先のGMのレポートで「社会への貢献」に近い内容を探してみたところ、その章のタイトルは「Building More Inclusive Communities」となっていました。当然、そこにはインクルージョン(さまざまな人・価値を受け入れる)の考え方が反映されているわけですが、概して言えるのは、日本企業が「社会への貢献」という表題の中で言及することの多い「地域社会」については「communities」とう語を使うのが一般的ということです。日本語で「社会」となっていても、それがどのくらいの範囲を指すのか、そこを考えた上で英語を選択しないと、海外の読者には不自然に思えてしまうことがあります。
 

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ここまで見てきたように、「〜活動」という熟語を英語でも同じように「〜 activity」と言うかどうかは、慣習によるところが大きいと言えます。ある程度幅の広い内容を指す「活動」でも、例えば、日本語の「事業活動」にあたる英語として「business activities」は使いますし、キャッシュフロー計算書に出てくる「営業活動によるキャッシュフロー」「投資活動によるキャッシュフロー」「財務活動によるキャッシュフロー」などでも、それぞれ「operating activities」「investing activities」「financing activities」という言い方をします(「activities」を使わない表現をする場合もあります)。

大事なのは、その「活動」が具体的に何を指しているのかを常に意識することです。特に、IRやESG関連の情報発信においては、その分野をよく理解している人でなければ、イメージしにくいこともあります。Google翻訳やDeepLといったAI翻訳はもちろんのこと、たとえネイティブの翻訳者であっても、字面だけを追った翻訳をしてしまう人もいますので、海外に向けた広報/IRを行う担当者は注意が必要です。

 

(了)

デザインクラフトでは、英文アニュアルレポート/統合報告書、英文パンフレット/ブロシュアのデザインのほか、和文から英文への差し替えレイアウトなどのご相談も承っております。企画からライティング、翻訳、デザイン〜DTPまで、ワンストップでの対応も可能です。詳細をお知りになりたい方は、Contactよりお気軽にお問い合わせください。

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Author

筆者:吉田周市
デザインクラフト代表。クリエイティブディレクター/翻訳者。海外広報専門の制作会社に12年在籍し、大手広告会社、証券系IR会社、電子部品メーカー、金融機関、経済メディア、官公庁、国際機関、在日大使館などを主要クライアントとして英文広報・IR関連のクリエイティブ業務・翻訳業務に携わる。2008年に現事務所を立ち上げ、以来、京都を拠点に多言語でのPR/IRクリエイティブの企画・制作と翻訳業務を続けている。
主な訳書

新標準・欧文タイポグラフィ入門 プロのための欧文デザイン+和欧混植
ハリウッド映画の実例に学ぶ映画制作論 - BETWEEN THE SCENES
PICTURING PRINCE プリンスの素顔

など。