COLUMN

 
 
2023.4.12

 

英文の見出しやリストのナンバリングにルールはある?

英文見出しに付ける番号

日本企業のビジネス文書や公的な文書には、見出しや小見出しの頭に番号が付いているものがよくあります。小見出しの階層が多い文書だと、数字を括弧で囲んだり、丸数字を用いたり、数字の代わりにアルファベットや仮名を使ったり…… 私たち日本人は割と普通に受け入れているこのような見出し番号ですが、海外で発行されている英文の文書ではあまり見掛けない気がします。実際のところ、どうなのでしょうか? そして、番号を付ける場合には、その規準は日本語の場合と同じなのでしょうか?

小見出し番号は、基本的に必要ない

 
早速、アメリカの代表的な編集スタイルガイド『シカゴ・マニュアル・オブ・スタイル』を改めて確認してみました。すると、「Numbered subheads」(番号付き小見出し)という項目があり、そこに次のように記載されていました。
 

Unless sections in a chapter are cited in cross-references elsewhere in the text, numbers are usually unnecessary with subheads. In general, subheads are more useful to a reader than section numbers alone. In scientific and technical works, however, the numbering of sections, subsections, and sometimes sub-subsections provides easy reference. 

章内のセクション(節)が本文の他の場所で相互参照(クロスリファレンス)の形で引用されている場合を除き、通常、小見出しに番号は必要ない。一般に、読者にとっては、セクション番号だけよりも小見出しの方が便利である。ただし、学術書や技術書の場合は、セクションやサブセクション(小節)、時にはサブサブセクション(小小節)に番号を振ることで、参照が容易になる。

 
出典:『The Chicago Manual of Style』"1.57 Numbered subheads"
翻訳: デザインクラフト

 
つまり、学術的な文書や技術文書のように、同じ文献内あるいは他の文献でクロスリファレンスを頻繁に行うもの以外は、基本的に見出しに番号を付ける必要はないということです。実際、広報的な主旨で発行されている海外の文書で、見出しに番号が付いている例は多くありません。もし番号を付けるとすれば、本来、そこに何らかの必然性や合理性があるからでしょう。

冒頭の画像は、ネットで公開されている某官庁の『白書』(ホワイトペーパー)の英語版のページです。白書は企業で言えばアニュアルレポートのようなものですから、特に文書内にクロスリファレンスを多く用いるわけではありません。そのような文書にこんなふうに番号付きの見出しがたくさんあると、海外の読者はちょっと面食らうか、失笑してしまうかもしれません。

一方、下記の画像は、アメリカの上場企業がSEC(米証券取引委員会)への提出を義務付けられている「Form 10-K」(日本での有価証券報告書にあたるもの)の紙面です。元々役所が規定した資料ですので「Part 1」や「Item 1」といった番号の規定はありますが、いわゆる小見出しにあたるものに番号は付いていません。
 
 

 
アマゾンのアニュアルレポート(Form 10-K)より。小見出しに特に番号は振られていません。

番号を振る場合は、各階層の番号を全て振るのが合理的

 
一方で、上述のように、学術書などクロスリファレンスが多い文書においては、ナンバリングが有効に機能するケースもあります。そういった場合は、どのような番号の振り方が望ましいのでしょうか?『シカゴ・マニュアル』の前述の項目に次のような説明があります。
 

There are various ways to number sections. The most common employs double or multiple (also called multilevel) numeration. In this system, sections are numbered within chapters, subsections within sections, and sub-subsections within subsections. The number of each division is preceded by the numbers of all higher divisions, and all division numbers are separated by periods, colons, or hyphens. Thus, for example, the numbers 4.8 and 4.12 signify, respectively, the eighth section and the twelfth section of chapter 4. The series 4.12.3 signifies the third subsection in the twelfth section of chapter 4, and so on.
 
セクション(節)に番号を付けるにはさまざまな方法があるが、最も一般的なのは二重または多重式(「マルチレベル」ともいう)の番号の振り方である。この方式では、章の中に節、節の中に小節、小節の中に小小節の番号が振られる。各部の番号の前に上位の区分の番号を振り、すべての区分の番号をピリオド、コロン、またはハイフンで区切る。例えば、「4.8」「4.12」は、それぞれ第4章の第8節と第12節、「4.12.3」は、第4章第12節の第3小節を意味するといった具合である。
 
出典・翻訳: 同上

 
この方式の合理性については、アメリカの弁護士兼タイポグラファーで、『Typography for Lawyers』(法律家のためのタイポグラフィ)の著書もあるマシュー・バタリックも、自身のウェブサイト「Practical Typography」(実用的なタイポグラフィ)で言及しています。彼は、まず旧式の方法について次のように一蹴しています。
 

従来、見出しの階層は、最上位のローマ数字(I、II、III)から始まり、大文字(A、B、C)、数字(1、2、3)、小文字(a、b、c)、ローマ数字の小文字(i、ii、iii)、その後は、片括弧でなく両括弧を使ったりというような分かりにくい変化によってこのバリエーションを付けていくというものだが、これは見出しの階層付けの方法としてはひどいやり方だ。

出典:Butterick's Practical Typography - 2nd Edition:Hierarchical headings
翻訳: デザインクラフト

 
その理由として、バタリックは次の4つを挙げています。
 

  1. ローマ数字は、読みにくく、間違いやすい。(例えば、「XLIX」を見ても何番目か分かりにくいし、「II」と「III」、「IV」と「VI」などは見間違いやすい)

  2. 英字はすぐに理解しにくい場合がある(「A, B, C」なら「1, 2, 3」と理解できても、「F」を超えて「J, K, L」となってくると何番目なのか認識しにくい。

  3. 数字と英字を混ぜると誤解を生じやすい。(例えば、小文字の「i」が1番目なのか9番目なのか、小文字の「v」が5番目なのか22番目なのか、など)

  4. 自分がどの階層を見ているのかが分かりにくい。(仮に小見出しに「d」しか付いていなかった場合、それが2の「d」なのか、3の「d」なのかすぐに分からない)


その上で彼は、『シカゴ・マニュアル』でも推奨されている数字だけを列挙する方式について、次のように述べています。
 

私の目には、この方式がより理解しやすい。数字だけを使っているので、曖昧さやミスを避けることができるし、ナビゲーションの点でも優れている。階層化された番号はどれも固有の番号であるため、自分がどの階層にいるのか常に明らかだからだ。

出典・翻訳:同上

 
バタリックが挙げた例を下記に引用してみましょう。この2種類で言えば、上の例よりも、下の例に合わせる方が合理的だということです。
 

従来型の英数混在の見出し番号の付け方
 I.  Primary heading
        A.  Secondary heading
        B.  Another secondary heading
              1.  Tertiary heading
              2.  Another tertiary heading 
        C.  Another secondary heading
 II.  Another primary heading
 
数字だけを列挙する見出し番号の付け方
 1.  Primary heading
        1.1  Secondary heading
        1.2  Another secondary heading
               1.2.1.  Tertiary heading
               1.2.2.  Another tertiary heading
        1.3  Another secondary heading
 2.  Another primary heading

 

学術書や技術書以外で、番号を振りたい場合は?

 

 
 
ここまで見てきた内容を要約すると、英文編集のプロに推奨されているのは次のような見出し番号の振り方だといえます。
 
【学術的・技術的文献など、相互参照を頻繁に用いる文書】
    • ▷「1.2」「1-2-1」のように、各階層の番号を全て数字で振る
    • (この方式であれば、全ての番号が他の箇所にはない固有の番号となる)

 
【上記以外の一般的な文書】

    • ▷番号は不要

 
しかしながら、日本の企業や行政機関の英文作成担当者にとって悩ましい問題が一つあります。日英2カ国語で発表すべき文書で、既に完成している日本語版に日本式の番号が振られているケースです。「英語版では、英語の通例に倣って番号はなし!」と割り切れればベストですが、日英の対比を気にするお役所などでは、そのような「英断」をくだしにくい場合もあるでしょう。

また、PRやIR的な目的で発表する文書の場合、学術書向きの「1.2」「1.2.1.」といった番号の振り方が必ずしも適しているとは言えません。そもそも相互参照が少ない文書ですので、学術書的な雰囲気を漂わせることになるこの種の番号付けをすることで、逆に違和感を与えてしまうかもしれません。そういった場合は、マシュー・バタリックが「ひどいやり方」と述べた、数字と英字を混在させる従来型のナンバリングの方が、まだましかもしれません。この従来型のナンバリング方式に絶対的なルールはありません。どの程度の階層があるかによって、番号の相関関係が変わってくるからです。ただし、番号の上下関係については、ある程度の定石があります。例えば、次のようなものです。
 

  • ローマ数字の大文字(I、II、III)は、章番号などの大きな階層にしか用いない。
  • 大文字(A、B、C)は、小文字(a、b、c)よりも上位の階層にくる。
  • 数字にピリオドを付けたもの(1.、2.、3.)は、括弧付きの数字((1)、(2)、(3))よりも上位にくる。
  • 数字と英字を混在させる場合は、それぞれを交互に用いることが多い。


このほか、日本語でよく用いられる丸囲み数字(①、②、③)は、デザイン的な処理としてなされる場合を除いて、ほとんど用いられません(そもそも一般的な欧文フォントにこれらの字形はありません)。一方で、両括弧((1)、(2)、(3))や片括弧(1)、2)、3))付きの数字については、特に用いてはいけないというルールは、少なくとも『シカゴ・マニュアル』にはなく、階層を示す際のナンバリングとして次のような例が掲載されています。
 

I. Historical introduction
II. Dentition in various groups of vertebrates
      A. Reptilia
            1. Histology and development of reptilian teeth
            2. Survey of forms
      B. Mammalia
            1. Histology and development of mammalian teeth
            2. Survey of forms
             a) Primates
                   (1) Lemuroidea
                   (2) Anthropoidea
                               (a) Platyrrhini
                               (b) Catarrhini
                                            i) Cercopithecidae
                                           ii) Pongidae
             b) Carnivora
                   (1) Creodonta
                   (2) Fissipedia
                              (a) Ailuroidea
                              (b) Arctoidea
                   (3) Pinnipedia
             c) Etc. . . .
 
出典:『The Chicago Manual of Style』"6.132: Vertical lists with multiple levels (outlines)"

 
上の例ほど多くの階層がある文書は、さほど多くないでしょう。もっと階層が少ない場合についてはどうでしょうか? そのような場合、『シカゴ・マニュアル』では「ローマ数字の大文字やアルファベットの大文字は使わず、アラビア数字から始めて良い」としており、次のような例も掲載しています。
 

1. Punctuation
     a. Using commas appropriately
     b. Deleting unnecessary quotation marks
     c. Distinguishing colons from semicolons
2. Spelling
     a. Using a dictionary appropriately
     b. Recognizing homonyms
     c. Hyphenating correctly
3. Syntax
     a. Matching verb to subject
     b. Recognizing and eliminating misplaced modifiers
     c. Distinguishing phrases from clauses while singing the “Conjunction Junction” song

出典:同上

 
その上で、『シカゴ・マニュアル』は次のように指摘しています。
 

What is important is that readers see at a glance the level to which each item belongs.
重要なのは、各項目がどの階層に属しているかが一目でわかることである。


このために大切なのは、仮に階層の数が限られていたとしても、上述のような数字・英字表記の上下関係を理解した上で番号を振るべきということです。例えば、本来かなり下層に用いるローマ数字の小文字が上位の階層に来て、その下の層にピリオド付きの数字がきたりすると、読者はどちらが上のレベルなのか混乱してしまうのです。

※下記リンクによれば、『APAスタイルガイド』(アメリカ心理学会が定めたスタイルガイドで、社会科学分野を中心に研究論文の出版業界で広く用いられている)では、リスト表記する際の数字にはピリオドを用い、括弧は用いないと規定されています。ただし、同ガイドでも、本文中においては、「 (a) first item, (b) second item, and (c) third item」のように両括弧を用いるとしています。
出典:APA Style: Quick Answers - Formatting

決算短信での例

 
決算短信の番号付きの小見出しには階層が多いが、英文ではどう扱うべきか?

 
日本企業が発表している決算短信とその添付資料には、上の画像のように数字表記のバリエーションで階層付けがなされている場合がよくあります。しかし、上の画像のような番号の振り方を英語版で踏襲してしまうと、海外の読者にとっては非常に分かりづらいものになってしまいます。このような場合は、どうすれば良いでしょうか? 前述のように絶対的なルールはないのですが、ここまで見てきた定石に従えば、例えば、次のような形が望ましいといえるでしょう。
 

[日本語版]
2.その他の情報

    (1) 重要な子会社の異動の概要
    (2) 簡便な会計処理及び特有の会計処理の概要
          ① 簡便な会計処理
                1) 棚卸資産の評価方法
                2) 税金費用の計算
          ② 特有の会計処理
    (3) 会計処理の原則・手続き、表示方法等の変更の概要

[英語版]
2. Other information
     a. Changes in significant subsidiaries
     b. Simplified accounting methods and special accounting methods
          (1) Simplified accounting methods
               a) Inventory valuation method
               b) Calculation of tax expense
          (2) Special accounting methods
     c. Changes in accounting principles, procedures, and presentation methods

 

もちろん、番号を振らなくて済むなら、それがベストなのは先に述べた通りです。その場合に階層の上下関係をどうやって区別するかについては、各項目の始まり位置(左寄せ位置)を変えるほか、フォントのウェイトや形状(イタリック、ボールド、ライト、コンデンスドなど)、文字サイズ(ポイント数)や単語頭文字の表記スタイルで差別化するといった方法があります。詳しくは、以前のコラム「日本人が陥りがちな、ネイティブが違和感を感じる英文デザイン─その4─うるさい見出し」で述べていますので、そちらもご参照ください。

なお、今回のテーマである見出し番号とは直接関係ありませんが、決算短信の日本語には括弧で括った小見出しがよく見受けられます。例えば、「(セグメント情報)」のような表記ですが、英語の括弧は基本的に「補足説明」の意味で用いられますので、特に補足説明でない通常の小見出しについては、括弧は用いず、そのまま「Segment information」のように表記すべきです。

 
 

(了)

デザインクラフトでは、英文アニュアルレポート/統合報告書、英文パンフレット/ブロシュアのデザインのほか、和文から英文への差し替えレイアウトなどのご相談も承っております。企画からライティング、翻訳、デザイン〜DTPまで、ワンストップでの対応も可能です。詳細をお知りになりたい方は、Contactよりお気軽にお問い合わせください。

2024.4.10  ─

決算短信や説明会資料に特有の 英訳に気を付けるべき言い回し

2024.3.1  ─

「トップメッセージ」の英訳って、「Top Message」でいいの?

2023.2.16  ─

日本人デザイナーが陥りがちな、ネイティブにとって読みにくい英文統合報告書レイアウトの失敗例7選

2023.12.06  ─

「世界観」は英語でなんて言う?

2023.10.17  ─

「経営資源」の英訳って「managerial resources」でいいの?

2023.6.15  ─

海外のターゲットに「届く」英語版会社案内のプレゼンテーションとは?

2023.5.30  ─

プレスリリースでの「〜のお知らせ」の英訳って、“Notice Concerning 〜”でいいの?

2023.4.12  ─

英文の見出しやリストのナンバリングにルールはある?

2022.12.26  ─

「中期経営計画」の英訳って「Mid-Term Management Plan」でいいの?

2022.11.12  ─

サステナビリティ、ESG、社会貢献...その「活動」の英訳、本当に「activities」でいいの?

2022.5.11  ─

ネイティブが違和感を感じる英文デザイン─その4─うるさい見出し

2022.4.15  ─

ネイティブが違和感を感じる英文デザイン─その3─長すぎる見出し

2022.4.05  ─

ネイティブが違和感を感じる英文デザイン─その2─欧文フォントの不自然な使い方

2022.3.17  ─

ネイティブが違和感を感じる英文デザイン─その1─ 詰め込みすぎのレイアウト

2021.12.07  ─

Is Your Aim True?──「目指します」の英語表現について考える

2021.6.10  ─

「安全・安心」──その使い方に要注意!? 英訳は “safe and secure”で本当にいいの?

2021.5.17  ─

英文レイアウトで 日本人デザイナーや編集者が見落としがちな禁則

2021.3.10  ─

英文会社案内やアニュアルレポートに「会社概要」は必要か?

2020.10.01  ─

コンデンスドフォントは、本当に使ってはダメなのか?

2020.9.03  ─

文章の中心で、社名をさけぶ !? ─オールキャップス(全て大文字)の固有名詞表記って実際どうなの?

2020.5.07  ─

フォント使いがモノを言う─英文統合報告書のデザイン

2020.4.16 ─

欧文タイポグラフィにおける「オーバーシュート」

2019.10.03 ─

「内部のチャンピオン」?─"Internal champion" って何?

2019.9.09 ─

海外投資家に叱られる? ─ “We aim to ...” だの、“Aiming to ...” だのと言っている日本の社長メッセージの何と多いことか……

Author

筆者:吉田周市
デザインクラフト代表。クリエイティブディレクター/翻訳者。海外広報専門の制作会社に12年在籍し、大手広告会社、証券系IR会社、電子部品メーカー、金融機関、経済メディア、官公庁、国際機関、在日大使館などを主要クライアントとして英文広報・IR関連のクリエイティブ業務・翻訳業務に携わる。2008年に現事務所を立ち上げ、以来、京都を拠点に多言語でのPR/IRクリエイティブの企画・制作と翻訳業務を続けている。
主な訳書

新標準・欧文タイポグラフィ入門 プロのための欧文デザイン+和欧混植
ハリウッド映画の実例に学ぶ映画制作論 - BETWEEN THE SCENES
PICTURING PRINCE プリンスの素顔

など。