COLUMN

 
 
2021.3.10

 

英文会社案内やアニュアルレポートに「会社概要」は必要か?

Is the Japanese-style "corporate overview" really needed in the English versions of corporate brochures and reports?

日本企業の英語版サイトや会社案内・アニュアルレポート・統合報告書などの仕事をする中でいつも気になるのが、いわゆる「会社概要」の扱いです。社名に始まって住所、代表者名などをリスト式に掲載する「会社概要」──日本ではよく用いられるフォーマットですが、海外で使われることはほとんどなく、これをそのまま英訳して掲載してもあまり意味がないばかりか、奇異な印象を与えてしまう場合さえあります。

日本で一般的な「会社概要」のスタイル

 

日本では、ウェブにしろ紙媒体にしろ、会社案内資料の中で「会社概要」という項目を立てるのはごく一般的です。紙媒体で巻末への掲載が多いことからも分かるように、「一応スペック情報も載せておく」といった程度の扱いが多いですし、単に慣習として掲載されているだけという印象も受けます。内容は社名・代表者名・住所・設立年・資本金・従業員数・事業内容・取引先銀行などの情報で、大抵は箇条書きの表形式になっています。
 
英語版のコーポレートサイトを持っている日本企業は、大抵はこれをそのまま英訳して掲載しています。翻訳版と考えればそれはそれで構わないのですが、本格的に海外展開したい、あるいはグローバル企業を標榜するような会社の場合は、もう少し検討の余地があるかもしれません。なぜなら、「英語脳」的に考えてみると、そもそもコーポレートサイト自体が「会社概要」なのに、なぜまたその中に「会社概要」があるの?と思えてしまうからです。

「会社概要」の英訳は何とすべきか?

  

この「会社概要」、ウェブサイトの場合はまだ分からなくもないのですが、一層の違和感を感じるのは英語版会社案内パンフレットの場合です。例えば、その会社案内自体のタイトルが「Company Profile」や「Corporate Profile」だったとしましょう。その際、巻末(表3ページなど)への掲載が多いリスト式「会社概要」の英訳は何とすれば良いでしょうか?「Company Profile」や「Corporate Profile」だと、表紙タイトルと同じになってしまいます。もちろん英訳の方法は他にもあります。「概要」だけとってみても「Overview」「Summary」「Outline」などの選択肢がありますし、アニュアルレポートや統合報告書では「Corporate Data」としている日本企業も多くあります。
 
しかし、どの用語を使っても英語ネイティブの感覚で違和感を感じてしまうのは、そもそもこういった会社情報の提示の仕方自体が海外では一般的でないからです。「Corporate Data」は一見妥当な訳語のようにも思えますが、この言葉をGoogle英語版で検索してみても、日本でいう「会社概要」の意味でヒットするページは日本企業のもの以外ほとんどありません。

 
Google英語版での「Corporate Data」での画像検索結果。日本でいう「会社概要」の意味合いに相当する画像は見当たらない。

特定の単語やフレーズが英語圏でどういうイメージで捉えられているかを知る簡便な手段としてGoogleの英語版で画像(image)検索する方法がありますが、これで「Corporate Data」と検索して最初に出てきた結果が上のページ画像です。ご覧のように「デジタルデータ」や「データベース」を思わせるものがほとんどで、日本でいう「会社概要」と結びつくような画像はほぼ出てきません。一般に、英語圏で「Corporate Data」というと、会社が保有する各種の膨大なデータが連想されることが多いのです。
 
もちろん海外の会社案内資料にも、会社の概要を一目で掴めるようなコンテンツはあります。しかし、それらは日本のような巻末に来るタイプのものではなく、むしろ最初の方に掲載されるものです。そういうケースでよく使われる英語としては「Overview」や「At a Glance」などがありますが、これらの表現はどちらかと言えば「まずは当社の概略を知ってください」というニュアンスです。したがって、巻末に置かれる日本式の「会社概要」のタイトルとしては、あまりふさわしくないように思います。逆に海外の会社案内資料では、「Corporate Facts」や「Facts & Figures」といった形で、会社に関するファクチャルなデータ(定量情報)だけを掲載するページもあります。こちらには「補足情報」的なニュアンスが含まれますので巻末に掲載しても問題はありませんが、日本で言う「会社概要」とはまた別のものです。
 
私たちデザインクラフトで日本式の「会社概要」を英訳する場合は、情報の内容やページ全体での相関関係などを考慮した上で、その媒体の中で最も違和感のない表現を選ぶようにしています。英訳は状況によって異なる、ということです。

 個の特性をより重視する欧米文化

 

 
このような日本式の「会社概要」は、「会社経歴書」の名残ではないかと私は考えます。「会社経歴書」は、役員の名前や設立年、資本金、取引先銀行など、他と比較しやすい定量的な情報を過剰書きにしたものですが、役所や金融機関など多くの会社を精査する必要がある人たちにとってはある程度便利なフォーマットでしょう。
 
こういった価値判断基準は、ある意味とても日本的です。日本の社会は、農耕文化や封建制度、儒教の教えから発展してきました。そうした社会では、権威や家柄、学歴などが重んじられます。言い換えれば、歴史や実績・規模など、比較的数字に置き換えやすい定量的情報が重要視されるのです。
 
これに比べて欧米の文化では、定性的情報を重視する傾向が強いようです。「権威」や「家柄」に対する言葉で言うなら、「考え方」や「人柄」でしょうか。海外のコーポレートサイトやブロシュアには、巻末に「会社概要」がない代わりに、より目立つ場所に経営者自らが理念やビジョンを語るページがあったり、「Our Team」といった表題で主要スタッフ一人ずつの紹介ページがあったりします。日本企業が会社という集団の体裁を重視したり、個人の顔を隠したがったりする傾向が強いのに対し、個人の顔を見せることに抵抗がない、あるいはそれが重視されるのが欧米型の企業であるとも言えます。

国内向けと海外向け──目的が違えばコンテンツも変えるべき

 

このように、国内向けと海外向けとでは、元々対象となるオーディエンスの問題意識や文化が異なります。ですから、本来はそれぞれに応じたコンテンツ企画が必要なはずです。
 
卑近な例になりますが、私どもデザインクラフトでも最近、日本語版と英語版のウェブサイトをリニューアルしました。その際、日本語版では「About Us」ページ内に「事務所概要」という項目を立てて、代表者名・業務内容・取引先銀行など、日本式「会社概要」のスタイルを踏襲しました。しかし、英語版では同じスタイルの情報掲載は行いませんでした。代りに掲載したのは、日本語版にはない代表者の経歴や写真です。このほか本文も少し内容を変えています。例えば、英語版には、日本語版にない外資系企業との実績紹介を載せました。私たちの場合、日本語版のターゲットが海外や外国人にPR展開しようとしている日本企業であるのに対し、英語版は日本でローカリゼーションを行おうとしている外国企業が対象になるからです。

 グローバル企業、武田薬品の例

 
もう一つ分かりやすい例があります。武田薬品工業の事例です。日本の老舗製薬メーカー 武田薬品では、2014年にグラクソ・スミスクライン出身のフランス人 クリストフ・ウェバー氏が初の外国人社長に就任。その後、同社は2019年にアイルランドの製薬大手シャイアーを買収するなど、急速にグローバル企業への道を歩んでいます。今では全世界の9割の社員が日本人以外、日本国内でも半数近くが外国人従業員だといいます。
 
武田では、ほぼ毎年ブロシュア版の会社案内を発行しています。冊子のタイトルは2019年版までは英語版が『Corporate Profile』、日本語版が『コーポレートプロファイル』(2019年版のみ「会社案内」という日本語並記)でしたが、最新の2021年版では英語版が『Corporate Overview』、日本語版が『会社概要』となっています。これらのブロシュアには、いずれにも最初に述べたようなリスト式の「会社概要」は掲載されていません。
 
同社のアニュアルレポート(2017年版から『サステナブルバリューレポート』)はどうかと言うと、2018年版までは巻末にリスト式の「会社情報」(英語版は「Corporate Information」)がありましたが、2019年版以降、日本語版・英語版ともこの項目がなくなっています。武田の日・英のレポートの変遷を見てみると、2018年版までは日本語で企画〜原稿作成したものを英訳していたと思われますが、2019年版からは英語で企画〜原稿作成したものをベースに日本語版を作成しているように見えます。2019年版以降、英語版のレイアウトがより自然になっているのに対し、日本語版の文字使いが若干不自然に感じられるのです。


武田薬品のアニュアルレポート2018年版。この年までは上のような「会社概要」が掲載されていたが、2019年版以降割愛された。

ウェブサイト・コンテンツについては、日本語版の「企業情報」というセクション下に「会社概要」というページがあり、事業所の住所・連絡先とともに日本式のリスト表示が残っています。この形式は英語版でも踏襲されており、「企業情報」の英訳が「Company Information」、「会社概要」の部分が「Company Facts & Japan Offices」となっています。「会社概要」を直訳するのではなく、内容に即した英語になっているのが分かります。今では同社のウェブサイトは基本的には英語版をベースに作成しているようであり、逆に日本語版の方に若干の不自然さが感じられます。和文フォントが全体に「ぼってり」した印象なのに加え、日本語の表題や小見出しなどで「日本人ならこういう使い方はしない」という表現が散見されるのです。恐らく、何らかのシステムを使って自動言語変換しているのではないかと思います。
 
グローバリゼーションとローカリゼーション──表裏一体の二つですが、やはりまだ単純なAI化は難しいようです。
 

(了)

デザインクラフトでは、英文アニュアルレポート、英文パンフレットのデザインのほか、和文から英文への差し替えなどのご相談も承っております。企画からライティング、翻訳、デザイン〜DTPまで、ワンストップでの対応も可能です。詳細をお知りになりたい方は、Contactよりお気軽にお問い合わせください。

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Author

筆者:吉田周市
デザインクラフト代表。クリエイティブディレクター/翻訳者。海外広報専門の制作会社に12年在籍し、大手広告会社、証券系IR会社、電子部品メーカー、金融機関、経済メディア、官公庁、国際機関、在日大使館などを主要クライアントとして英文広報・IR関連のクリエイティブ業務・翻訳業務に携わる。2008年に現事務所を立ち上げ、以来、京都を拠点に多言語でのPR/IRクリエイティブの企画・制作と翻訳業務を続けている。
主な訳書

新標準・欧文タイポグラフィ入門 プロのための欧文デザイン+和欧混植
ハリウッド映画の実例に学ぶ映画制作論 - BETWEEN THE SCENES
PICTURING PRINCE プリンスの素顔

など。