COLUMN

 
 
2022.3.17

 

日本人が陥りがちな、ネイティブが違和感を感じる英文デザイン
─その1─ 詰め込みすぎのレイアウト

2022.3.17

 

日本人が陥りがちな、
ネイティブが違和感を感じる
英文デザイン─その1─
詰め込みすぎのレイアウト

詰め込みすぎの英文レイアウト

日本企業が発行する英文の広報誌や統合報告書、説明会資料などを見ていると、英語のネイティブであれば敬遠したくなるような紙面がよくあります。場合によっては企業イメージさえ損ねかねないこういった事例の問題点についてシリーズで検証します。第1回は「要因その1:詰め込みすぎのレイアウト」

 日本語版をもとに英語版を作る際の落とし穴

 
敬遠したくなる紙面というのは、一言で言うと「読む気にならない」紙面です。英文の扱いに慣れていない広報担当者やデザイナー/DTPオペレーターがハマりやすいこのような英文ページデザインの大前提としてまず考えられること、それはその資料が最初に日本語版ありきの英訳版であることです。翻訳の仕事では、その言語のネイティブ読者がどう捉えるかを常に意識することが大切ですが、同じことがレイアウトデザインにも言えます。私たち日本人が海外で現地の日本語パンフレットを見て、「こんな大きな文字は変だな」とか「この内容でこんな可愛い文字(書体)は普通使わないよな」といったことがよくあります。それと似たような印象を海外の読者に与えないようにしなければなりません。見た目に違和感があると、内容まで懐疑的に見られてしまうことが多いからです。
 

 
なかでも、企業が発表するコーポレートレポート(統合報告書)や決算説明会資料、中期経営計画資料などでは、こういった配慮がより重要になってきます。これらの資料は、株主や機関投資家などに対する会社の広報官のようなものです。その広報官が、伝えている内容に不相応な派手なTシャツを着ている──そんな事態は避けなければなりません。別の例えをすると、経済紙に載るような内容がスポーツ新聞のような紙面で展開されている、そんな事態です。
 
読む・聞くといった私たちの基本的行動は、長年親しんできた習慣によって成り立っています。普段慣れ親しんでいるものとは異なるスタイルが提示されたとき、人は違和感や抵抗感を感じるものです。海外の読者に抵抗なく読んでもらうには、彼らが違和感を感じないような見た目にすることが大切なのです。

日本人は余白を好まない?

 
日本画や日本庭園、書道や華道など、日本人の美意識は伝統的に「余白の美」であると言われています。しかし、この美意識は、一般的な日本人の実生活・実社会に必ずしも浸透しているように思えません。
 
日本人は余白を好まない?

 
都市にはさまざまな種類の建物や看板が溢れかえり、一般家庭の生活空間にも「余白」はあまり感じられないのではないでしょうか。文化論になってしまいますが、日本人は、「余白」を楽しむマインドと雑多なものを好むマインドの両方を「ハレとケ」のように使い分けているように思えます。
 
余っているスペースを有効に使いたいというマインドが日本人に元来あるのかもしれませんが、こと印刷物、特に広報資料に関しては、クライアントの意向なのか、多くの情報を紙面に詰め込もうとするデザインが非常に多いと感じます。そういった紙面が欧米にないわけではありませんが、概して言えば、欧米のデザイナーの方が余白をうまく活かしていることが多いように思えます。これはデザイナーのスキルの問題だけではなく、余白を自然に取り入れる文化がむしろ欧米において浸透しているせいではないでしょうか。

英文では文字量が増えることを前提に日本語版をデザインすべし

 
ここで注意しなければならないのが、同じ内容を伝える際の日本語と英語の文字ボリュームの違いです。日本語の文章を英訳してそれを同等サイズの欧文テキストに置き換えた場合、物理的なボリュームは通常1.2〜1.5倍程度になります。下の例をご覧ください。
 

和文)
2022年3月期は、半導体事業がコロナの影響を受け減収となったことにより、連結売上高は前期から12億30百万円(5.5%)減少し1,680億40百万円、連結営業利益は前期から8億41百万円(20.4%)減少し35億71百万円となりました。
 
英文)
Consolidated sales for FY2021 (the year ended March 31, 2022) fell on the previous year by 1,230 million yen (5.5%) to 168,400 million yen. This is mainly attributable to declined sales for the semiconductor business due to the impact of the coronavirus pandemic. Consolidated operating income also decreased by 841 million yen (20.4%) to 3,571 million yen.

 
この傾向は、漢字(熟語)が多い文章ほど顕著になります。上の例のような財務報告では熟語が多くなりがちですが、そういった資料を日・英それぞれの言語で作る際には、予め英語になった場合を想定した余裕のあるレイアウトにしておくことが大切です。その点を考慮せず、和文版で目一杯のレイアウトになっていると英語版のデザインが破綻してしまいます。そこに単純に英訳原稿を「流し込む」作業をしてしまうと、テキストのサイズをかなり小さくしなければ収まらなくなってしまいます。
 
文字サイズを小さくする代わりに、特定の段落にだけ極端なトラッキング(段落全体の文字間詰め)を掛けたり、文字に長体(文字幅を狭くすること)を掛けたりして収めようとしている例もたまに見かけますが、それが明らかに認識できるようなレイアウトはタブーと言っていいほど見苦しく映ります。
 
さらに、本文の文字サイズを小さめに設定した場合に注意したいのが、見出しと本文のバランスです。本文が読みづらいくらい小さいのに、見出しだけ日本語版同様大きなサイズのままといったレイアウトも違和感を感じさせる要因になってしまいます。
 
 
本文書体が小さすぎたり1行が長すぎるレイアウト、見出しと本文のバランスの悪いレイアウトは、読者の読み気を削いでしまう恐れがあります。

 
本文書体が小さすぎたり1行が長すぎるレイアウト、見出しと本文のバランスの悪いレイアウトは、読者の読む気を削いでしまう恐れがあります。
 
 

もう1つ気を付けたいのが行の長さと行間です。行の長さは、読み手の目が次の行頭に移る際に眼球を意識的に動かしていると感じない程度の長さにすべきですが、日本企業の英文レポートでは1行が長すぎるものがよくあります(和文に比べてポイント数を下げているために1行のワード数が増えることが一因と思われます)。書体にもよりますが、1行に15ワード以上あると読者は読みにくさを感じるものです。もっとも、逆に1行のワード数が短すぎるのも考えものです。読者の目が何度も行ったり来たりしなければならず、パラグラフをまとまりで捉えにくいからです。
 
行間については、狭すぎる例は比較的少ないですが、よくあるのが広すぎる行間です。英文読者が複数の行を1つのパラグラフと認識するには、それに相応しい行間があります。普段見慣れている間隔以上に行間が空いていると、違和感を感じさせてしまいます。では、どのくらいの行間が適切なのでしょう? フォントの種類やコラム幅(行の長さ)、原稿の性格などによって変わってきますが、大まかに言うと、本文の場合、テキストのポイント数の1.1〜1.3倍(本文が10ptなら、行送り11〜13pt)くらいまでが読みやすい行間と言えるでしょう。もっとも、見ていて心地良い行間というのはフォントの種類によって変わってきます。欧文フォントには「アセンダー」という上に突き出た部分と「ディセンター」という下に突き出た部分があり*、それらが行間に影響を与えます。アセンダー/ディセンダーの長さは書体によってまちまちですので、ある書体で適切な行間でも、別のフォントに置き換えた時に読みやすいとは限らないのです。
 

* 以前の記事「欧文タイポグラフィにおける『オーバーシュート』」に詳しい説明があります。

 
英訳の仕事では、ときどきお客様から「出来るだけ文章が短くなるように訳してください」と要望をいただくことがあります。その場合、翻訳のプロとしてなるべくご要望に沿うよう簡潔な表現を心がけますが、上記例のような財務報告や事業報告の場合、これ以上削りようがないという文章もたくさんあります。繰り返しになりますが、英語版を作る予定がある場合には、日本語版をデザインする時点で英語版を想定した余裕のあるレイアウトにしておくことが肝要です。

チャート図の使いすぎに注意

 
もう1つ、日本のコーポレートレポートや経営計画説明資料などでよく使われていて、海外の読者が違和感を感じる可能性があるものがあります。コンセプトや計画などを示すチャート図です。日本の企業は、経営計画や事業の仕組みなどを示す際にチャート図を多用しますが、欧米人は抽象的な概念を図式化することにさほど馴染みがありません。最近でこそ統合報告書で求められている価値創造プロセスなどで多少必然性が生じているとはいえ、図を用いるのは、インフォグラフィックを使うなど視覚的な必然性がある場合に比較的限られています。図を見て内容を理解するという習慣があまりないため、あまり必然性のない図を多用すること自体、違和感を感じる要因になりえるのです。
 
図を見て内容を理解する習慣があまりない欧米人には、このような日本式のチャート図は奇異に思えてしまう場合があります。

 
図を見て内容を理解する習慣があまりない欧米人には、このような日本式のチャート図は奇異に思えてしまう場合があります。

 
 
また、こういった図内の文言は、英訳することで日本語よりもスペースを取ります。例えば、日本語では比較的簡潔な「成長戦略」「中長期計画」といった熟語も、英語にすると「Growth strategy」「Medium- to long-term plan」のように倍以上の長さになってしまいます。ですから、図の中に使われている文言が多ければ多いほど、紙面がうるさく、読みづらくなってしまうのです。
 
図内の文字が日本語版で縦書きになっているケースもあります。英文の縦書きは単純な単語でない限り推奨できませんので、90度回転させてレイアウトすることになり、それも読者にとってストレスの要因になります。
 
日本語版のデザイナーがそういった点まで考慮して最初からデザインしておけば良いのですが、それができなかった場合、英語版の読みやすさは、英文を扱うデザイナーやタイプセッターの手腕にかかってきます。見出しの改行をどの単語の後ですべきかとか、タイプフェイスを選択する上でも、原稿の意味やニュアンス、欧文フォントの特性などをしっかりと理解した上で英語に置き換えていくスキルが求められます。

欄外注記も紙面をうるさくする要因に

  
このほか日本企業のレポートに多いのが、専門用語や略語などについて、※印や「注1、注2」を使って別記する注釈の使用です。コンテンツにもよりますが、デザイナーがレイアウトするような欧米企業のレポートでは、本文内に注釈を付けることはあまりありません。仮にそういう補足が必要だったとしても、その説明も本文に含めるのが一般的です。
 
注記の多いレイアウトは煩雑な印象を与え、読む気をそぐ要因になりますので、仮に日本語版で注記が付いていても英語版では本文に含めるなどの編集者の配慮が望まれます。
 
英文ではこのように※印を使うことは本来ありません。

 
英文ではこのように※印を使うことは本来ありません。

 
 
また、時折、日本企業の英文資料で※印をそのまま使って注記をしているものを見かけますが、※印は日本固有の記号であり、欧米言語にそれにあたる記号はありません。※印の部分を「*」(アスタリスク)で代用しているものも日本企業の英文資料でよく見かけますが、アスタリスクは本文中の単語の肩に付けて、その説明を欄外に記す場合に用いるもので、日本語の「注」(注記)と同じ用法で使うことはありません。「注」と記したい場合には、「Note:」とするのが一般的です。
 
このように英語ページのレイアウトには、デザイナーのみならず、その冊子を担当する編集者にも英文編集のノウハウが求められるのです。次回は、デザイナーや編集者が知っておくべき欧文フォントの基本的な扱いについて取り上げたいと思います。
 

(了)
 
 

※上記の各レイアウトサンプル画像は、良くないレイアウトのイメージとしてこの記事用に独自に作成したものです。(他者に帰属するレイアウトなどは使用しておりません)

デザインクラフトでは、英文アニュアルレポート/統合報告書、英文パンフレット/ブロシュアのデザインのほか、和文から英文への差し替えレイアウトなどのご相談も承っております。企画からライティング、翻訳、デザイン〜DTPまで、ワンストップでの対応も可能です。詳細をお知りになりたい方は、Contactよりお気軽にお問い合わせください。

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Author

筆者:吉田周市
デザインクラフト代表。クリエイティブディレクター/翻訳者。海外広報専門の制作会社に12年在籍し、大手広告会社、証券系IR会社、電子部品メーカー、金融機関、経済メディア、官公庁、国際機関、在日大使館などを主要クライアントとして英文広報・IR関連のクリエイティブ業務・翻訳業務に携わる。2008年に現事務所を立ち上げ、以来、京都を拠点に多言語でのPR/IRクリエイティブの企画・制作と翻訳業務を続けている。
主な訳書

新標準・欧文タイポグラフィ入門 プロのための欧文デザイン+和欧混植
ハリウッド映画の実例に学ぶ映画制作論 - BETWEEN THE SCENES
PICTURING PRINCE プリンスの素顔

など。