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2023.5.30

 

プレスリリースでの「〜のお知らせ」の英訳って、
“Notice Concerning 〜”でいいの?

2023.5.30

 

プレスリリースでの「〜のお知らせ」の英訳って、“Notice Concerning 〜”でいいの?

プレスリリースでよく見られる「〜のお知らせ」の英訳、"Notice concerning 〜"としている日本企業が多いですが、海外でもそう言うのでしょうか?

日本企業のプレスリリースには、「〜に関するお知らせ」というタイトル(ヘッドライン)がよく見受けられます。株の配当や決算、人事、組織変更といったIR関連の情報に用いられることが多いようですが、これらのリリースの英語版を見てみると、大抵の場合、「Notice concerning 〜」や「Notice regarding 〜」といったヘッドラインになっています。しかし、このような英文ヘッドラインは、英語ネイティブの感覚、とりわけプレスリリースを見慣れている人にとっては、違和感がある表現なのをご存じでしょうか?

“Notice”のニュアンスは、「通知」「通告」

 
まず気になるのは、「notice」という単語です。Google翻訳やDeepLなどの翻訳ツールで、例えば「配当に関するお知らせ」と入力してみると、確かに「Notice concerning dividends」や「Notice regarding dividends」といった英訳が出てきます。しかし、こういう場合の「お知らせ」を、海外の人たちは本当に「notice」というのでしょうか?アメリカで最も権威のある辞書のひとつ『Merriam-Webster』で「Notice」という名詞の意味を調べてみました。出てくるのは次のような定義です。(下記枠内は簡単に和訳したもの)
 

1.
 a:
  (1) 何かに関しての警告または通告(ANNOUNCEMENT)
  (2) 契約や関係を一定の時期に終了するという当事者の意図を示す告知
  (3) 警告あるいは通知を受けている状態(通常「on notice」の形で用いられる)
 b: INFORMATION, INTELLIGENCE(情報、諜報)
 
2:
 a: ATTENTION, HEED(注意、関心)
 b: 礼節を伴った、あるいは好意的な意味での注目(CIVILITY)
3: 書面による通知
4: 短い批評
 
出典:merriam-webster.com

 
このうち「2:」や「4:」は「お知らせ」の意味とはかなり異なる意味になりますので、関連があるのは主に「1:」での定義ですが、そこから受け取れるニュアンスは「通知」や「通告」「告知」といった日本語に近いものです。英和辞典を引いても、おそらく同じような単語が載っているはずです。

「『お知らせ』と『通知』は同じではないか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、日本企業が言う「お知らせ」は、大抵の場合、株主や投資家、顧客などに対して「お伝えいたします」「お知らせいたします」という、どちらかと言えば、丁寧な響きです。一方、「通知」という言葉にはもっと事務的、強いて言えば「役所的」な響きがあります。「通告」や「告知」となると、そのトーンはさらにきつくなり、ある種の権威性さえ感じさせます。さらに注意すべきは、『Webster』で最初に出てくる「warning」(警告)のニュアンスです。こうなると半ば命令口調です。実際、英語圏でよく用いられる「notice」を使った熟語に、次のようなものがあります。
 

  • Foreclosure notice(差押え通知)
  • Eviction notice(退去通知)
  • Layoff notice(一時解雇通知)
  • Delivery notice(不在配達通知書)
  • Draft notice(召集令状)
 
これらの熟語からも分かるように、「notice」には注意を喚起する響きがあります。違反や怠慢を注意された時のような、一瞬ドキッとするような響きです。ですから、「Notice Concerning Dividends」というフレーズは、海外の投資家にとっては「配当に関するお知らせ」というよりは、「配当に関する通告」のように響いてしまうのです。これを見た投資家は、急な対処を要するようなネガティブな情報が載っていると感じてしまうかもしれません。そうでなければ、随分官僚主義的な会社と思われるか、あるいはグローバルレベルには達していない企業という印象を与えてしまうかもしれません。
 
 
"Notice"は「通告」のほか、「警告」のニュアンスを帯びることもあります。

 
“Notice”は、「通告」のほか、「警告」のニュアンスを帯びることもあります。

 
 
では、日本企業が言う「お知らせ」のニュアンスに最も近い英単語は何でしょうか? それは、やはり「announce(ment)」でしょう。そのまま日本語に訳し戻せば「発表」です。「notice」が持つような一方的・高圧的ニュアンスは、そこにはありません。

英文プレスリリースのタイトルは、【3人称の主語+能動態の現在形動詞】が基本

 
「Notice Concerning Dividends」のような見出しが英語版サイトの「Press Release」や「News」ページに掲載されている時に気になることが、もうひとつあります。こちらは「〜のお知らせ」という和文タイトルの場合に限ったことではありません。問題は単語レベルではなく、文体にあります。このような体現止め(名詞節)の文体は、ニュース(プレスリリース)のヘッドラインとしてはそもそも相応しくないのです。これは、日本企業の英文プレスリリースで内容にかかわらずよく見られる傾向ですが、海外向けPR/IRを積極的に行いたい企業の場合、結構致命的な問題となります。英文プレスリリースのタイトル(=ヘッドライン、見出し)の文体には、ひとつの鉄則があります。下のリンクはNewswireという米国のプレスリリース配信会社のコラムコンテンツで、プレスリリースにおいてどのような文体(動詞の活用形)を用いるべきかを論じたものですが、ここに下記の記載があります。
 

The headline
The headline should always use an active verb to make it vivid and exciting.

ヘッドライン(見出し)
ヘッドラインには、臨場感を持たすため、常に能動態の動詞を用いること。

 
見出しに「常に能動態の動詞を用いる」ということは、すなわち見出しは 常にセンテンス(文=主語+動詞)の形であるということです。ですから、体言止めの見出し自体、本来英語では常識外れなのです。なぜセンテンスにすべきかと言うと、ひとつには上で述べられている通り、その方が臨場感があってよりニュース性が感じられること、もうひとつは、新聞などの記事の見出しにそのまま使えるということです。
 
日本でも海外でも記者が好むプレスリリースは、原稿をそのまま引用しても記事の体裁になるようなプレスリリースです。言い換えれば、良いプレスリリースのひとつの条件は、報道記事のような文体で書かれていることだと言えます。それは、見出しにも当然当てはまります。普段から英字メディアに接している方なら分かると思いますが、ニュース記事の見出しは、過去の話題であっても、基本的に【3人称の主語+能動態の現在形動詞】のセンテンスの形で書かれています(未来の話題の場合は、【3人称の主語+to 原型動詞】となります)。これに対し、日本の報道記事の見出しは、名詞節(体言止め)が主流です。その方が文字数が少なくて済むからです。しかし、このような和文の見出しをそのまま名詞節として英訳してしまうと、英文のニュースヘッドラインとしては体を成さなくなってしまいます。
 
 

 
ニュース記事の見出しは、【3人称の主語+現在形動詞】が基本(WSJのビジネスニュースページより)

 

例を見てみましょう。
 

◆ 日本語見出し
「ABC社、XYZストアと業務提携」
 
◆ 英語見出し
×  Business alliance with ABC Inc. and XYZ Store
○  ABC Inc. forms a business alliance with XYZ Store
○  ABC Inc. partners with XYZ Store


この例の日本語の見出しは体現止めですが、体現止めのまま訳した1番目の英文には記事の見出しらしい臨場感がありません。業務文書のようなそっけない響きです。この場合は、2番目のようなセンテンス形(主語+動詞)にするのが望ましく、さらに見出しとして簡潔にしたければ、少し意訳をして3番目のような形にしても良いでしょう。


今度は、この業務提携のニュースを当事者であるABC社がプレスリリースとして発表したと想定してみましょう。ABC社が発表する和文プレスリリースのタイトルは、単に「XYZ社と業務提携」となっているかもしれません。自社名義で発表するリリースなので、見出しから自社名を割愛することが考えられます。こういった場合の英訳はどうすれば良いでしょうか? 例を見てみましょう。

 

◆ 日本語プレスリリース見出し
「XYZストアと業務提携」

◆ 英語見出し

×  Business alliance with XYZ Store
×  We formed a business alliance with XYZ Store
○  ABC Inc. forms a business alliance with XYZ Store


1番目の英文フレーズは先に述べたように体現止めになっているため、見出しとしては不適格です。2番目はセンテンスにはなっていますが、ふたつ問題があります。ひとつは過去形を使っていること、もうひとつは「We」という1人称を使っていることです。プレスリリースも報道記事と同様、客観的視点で書くのが基本です。たとえ自社のことでも、主観的視点になってしまう1人称の文体は避けるのが原則です。3人称で書かれていれば、そのリリースを取り上げた記者や証券アナリストは、そのリリース原稿をそのまま記事として使うこともできます。しかし、1人称で書かれているリリースの場合、記事にする際にわざわざ3人称に書き直さなければなりません。多忙な記者や証券アナリストたちは、そのような手間を嫌います。自社のリリースを取り上げてほしければ、そういった配慮も必要です。もっともこれは本来日本語でも同じことですし、PR/IRに明るい欧米の企業にとってはごく当たり前のことなのですが。

IR関連プレスリリース英文見出し:海外の実例

 
「配当に関するお知らせ」のような内容は、そもそもプレスリリースとは言えないのではないか?──確かにその通りです。実際、日本企業のウェブサイト(日本語)でも「プレスリリース・お知らせ」というタイトルのページにしている企業が増えてきました。メディア向けのプレスリリースと株主や顧客向けの情報提供を分けて表示しているのです。ただ、この場合、英語版サイトで「お知らせ」の英文を「News」にしてしまうと、そのページタイトルから受ける印象は「Press Release」と大して変わらないものになってしまいます。こういった場合は、その「お知らせ」の範疇にもよりますが、例えば次のような英語表現にすると良いでしょう。
 

「お知らせ」の英語
 
日本語で「発表」と言えるタイプの内容
Announcement / Company Announcement など

株主向けの情報や株式に関する情報に特化している場合
Announcement to Shareholders / Stock-Related Information など
 

 
 

このような分類の中で「〜に関するお知らせ」を発表するのであれば、上で述べたようなプレスリリースの文体を気にする必要はありません。「Notice」という高圧的な表現だけは避けて「Announcement on 〜」「Announcement regarding 〜」などとすれば問題ありません。 ただ、欧米の大手企業の場合、株式や業績に関する内容もプレスリリース(ニュース形式)として発表・掲載しているところが主流です。下の画像は、米コカ・コーラ、そしてフェイスブックを運営するメタ社のプレスリリースページです。
 

 
出典:The Coca Cola Company: Press Releases / Meta Investor Relations: Press Releases

 

 
これらのページには、次のようなIR関連のプレスリリースの見出しが掲載されています。(和文は日本式のプレスリリースのタイトル風に和訳したもの)
 

コカ・コーラのプレスリリース(見出し例)
 
The Coca-Cola Company Elects Three Officers and Declares Regular Quarterly Dividend
  役員3名の選任と四半期普通配当の実施について
 
Coca-Cola Reports First Quarter 2023 Results
  2023年度第1四半期業績のお知らせ
 
Costa Coffee Announces New CEO
  コスタコーヒー新CEO就任のお知らせ
 
The Coca-Cola Company Announces Nomination of New Director and Approves 61st Consecutive Annual Dividend Increase
  新任取締役の指名と61回連続増配の承認について

 
メタのプレスリリース(見出し例)
 
Meta Reports Fourth Quarter and Full Year 2022 Results
  第4四半期及び通期業績のお知らせ

Meta to Announce First Quarter 2023 Results

  第1四半期業績発表のお知らせ

Peter Thiel to Retire from Meta Board of Directors at 2022 Annual Shareholder Meeting

  ピーター・ティール、2022年度年次株主総会で取締役退任へ

 
 
ご覧いただければ分かるように、日本企業が「〜のお知らせ」としがちな内容に対しては、「主語 + announces 〜」もしくは「主語 + reports 〜」が使われています。海外向けのPR/IRを真剣にお考えの広報担当者の皆さまには、自社の英文プレスリリースの見出しがグローバルスタンダードに達しているか、今一度チェックされることをお勧めいたします。

 
 

(了)

デザインクラフトでは、英文アニュアルレポート/統合報告書、英文パンフレット/ブロシュアのデザインのほか、和文から英文への差し替えレイアウトなどのご相談も承っております。企画からライティング、翻訳、デザイン〜DTPまで、ワンストップでの対応も可能です。詳細をお知りになりたい方は、Contactよりお気軽にお問い合わせください。

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Author

筆者:吉田周市
デザインクラフト代表。クリエイティブディレクター/翻訳者。海外広報専門の制作会社に12年在籍し、大手広告会社、証券系IR会社、電子部品メーカー、金融機関、経済メディア、官公庁、国際機関、在日大使館などを主要クライアントとして英文広報・IR関連のクリエイティブ業務・翻訳業務に携わる。2008年に現事務所を立ち上げ、以来、京都を拠点に多言語でのPR/IRクリエイティブの企画・制作と翻訳業務を続けている。
主な訳書

新標準・欧文タイポグラフィ入門 プロのための欧文デザイン+和欧混植
ハリウッド映画の実例に学ぶ映画制作論 - BETWEEN THE SCENES
PICTURING PRINCE プリンスの素顔

など。